2020年06月30日

3797話 座る神具


 第一世代がやり始め、第二世代が大いに発展させ、第三世代が安定させた。
「わしは神様と呼ばれておるが、貧乏神。若い頃に住んでいたアパートからは出たが一間が二間になっただけ」
「伝説の人です。神話の中の神様と私はいま会っているのですね」
「そんな神が万年床に座っておるか」
「それ、丸めて背もたれ、座椅子。いやソファーかもしれません」
「うむ、あと二つ両脇に蒲団をくっつければな。しかし、芯がない」
「はい」
「昔はねえ、私の一間のアパートに仲間が大勢寄り集まっていたもので、座布団がない。だから敷き布団を敷いたもんだ」
「伝説の巨大座布団ですね」
「だから、ただの寝具だよ。敷き布団」
「寝具ではなく神具だと言われていました。そこに座れば、良い事が起こると」
「そうだね、私は道を付けたが、その長座布団に座って、いや乗っていた連中は私の付けた道の向こう側へと進んだ」
「きら星のような人達ですね」
「そうだね」
「僕はもういい年をしているのですが、第四世代になります」
「もうやることがないだろ。やることがありすぎたのは第二世代まで。第三世代はそれを整理しただけで、もう終わっていた」
「僕はその終わった後の世代です」
「先ほども言ったように、もうやることは残っていないだろ」
「まだ、残りクズのようなのが」
「そうか」
「そこでです」
「なんじゃ」
「神具に座りたいのです」
「長座布団のことか」
「そうです。超有名な第二世代の大先輩たちと同じように、座りたいのです。いえ、乗りたいのです」
「そんなもの、もうないよ」
「今ので、結構です」
「今の、今のといっても客が来たときに出す蒲団しかないが」
「それで結構です。掛け布団は必要ではありません。敷き布団を」
 神様は押し入れを開け、蒲団の上に乗っているややこしいものを取り除き、掛け布団を横にやり、敷き布団を抜き出した。
 そして、畳の上の邪魔なものを端に押しやり、敷地を作って、そこに蒲団を敷いた。
「はははー」
 と、客はかしこまりながら、その敷き布団の真ん中に座った。
「満足か」
「はい」
 結局得をしたのは第二世代と第三世代までで、第一世代は恵まれないまま一間が二間になった程度で終わっている。
 この客、第四世代だが、実は第三世代にギリギリ入れるところだったのだが、世に出るのが遅かった。
 第一世代と第四世代、結構仲がいい。
 
   了



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2020年06月29日

3796話 上田さんに聞け


 黒田はモニターの表を見ながらため息をつく。右肩下がり。息は息でもため息。それで気が抜けた。
「上がりそうだったんだがね。駄目だなあ」
「下がる一方ですね」
「滑り台だ」
「しかし、何度か上がりかけましたよ」
「滑り台の瘤程度だ」
「はい」
「立ち上げのときが一番で、それを越えられない。ジリジリと下がっている」
「よくあることですよ」
「これは上がらないと困るんだ。立ち上げのときはスタートで、そこからどんどん上がらないとね。そうでないと話にならん。上田さんに相談してみる」
「それがよろしいかと」
 上田さんというのは仙人のような人で、浮き世離れしている人。だから逆にその意見を聞くのは新鮮で、思わぬヒントを与えてくれる。
「下がり続けておるとな」
「そうです。何とかなりませんか」
「水は高きから低きへと流れる。それだけのこと」
「じゃ、水だったのですね」
「さあ、下へ流れるのは水じゃろう」
 黒田はこの単純な解答で目が覚めた。
「どうでしたか、上田さんからいい知恵を頂けましたか」
「水だった」
「あ、はい」
「下へ行って当然。下へ下へと行って当然。この表、何の不思議もない。あたりまえのことだったんだ」
「まあ、このプロジェクトそのものが水物ですからねえ」
「そうだね。水商売のようなものだ」
「引きますか」
「いや、かなり突っ込んでおるし、手間もかかっている。全部無駄になる」
「でも下る一方でしょ」
「もう一度、上田さんに聞く」
「あ、はい」
 先ほど行ったばかりなのに、黒田はまた仙人の上田さんを訪ねた。
「おや、何か忘れ物でも」
「やはり水でした。これはどうすればいいのか」
「火の敵は水」
「ああ、そうか。分かりました」
 黒田はすぐに戻った。
「分かったぞ」
「それはよかったですねえ」
「水は火に強い」
「はい」
「だから、火に向けるのだ」
「火って、何ですか」
「火は火だ」
「火曜日とか」
「違う」
 黒田は火が何に該当するのかを聞きに、また上田さんを訪ねた。
 今度は、上田さんは留守のようだった。
 
   了




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2020年06月28日

3795話 暑気狂い


 まだ真夏ではないが暑い日、上田はいつものように駅へ向かった。駅前で買い物をするためだ。古い商店街が残っているが、アーケードはない。駅まで続く道にポツンポツンと商店がある。普通の家の方が多いのは、店じまいしたためだろう。しかし商店跡だった形が少し残っている。ただの家だが玄関の間口が広い。
 梅雨のさなかだが、そういうときの晴れ間は意外と真夏よりも暑い。
 上田は別に気にしてはいない。この時期ならそんなものだろう。もっと暑い日が数日前にあった。それも梅雨の晴れ間だ。晴れているだけでも幸いだろう。暑いのはいらないおまけだが。
 商店街に入りかけたとき、横を走り去る人がいた。横道から飛び出てきたのだろう。しかし走り方がおかしい。
 さらに進むと、向こうからこちらに向かって駆けてくる人がいる。中高年の婦人で日傘がガタガタ揺れている。日傘を閉じればもっと走りやすいはず。しかし日焼けしたくないのだろう。
 婦人の傘が閉じた。いや、消えた。落ちたのだ。そして婦人もペタンと転んでいる。誰かが駆けつけ、二人がかりで抱えて、店の中に入れる。店の人が助けたようだ。
 しかし、その店の人も、何か髪の毛がおかしい。逆立ちしている。これも似た世代の女性で、大きく長いゴムの前掛け姿。豆腐屋だろう。その豆腐屋の女将が今度は走り出した。医者でも呼びに行くのだろうか。しかし救急車を呼んだ方が早いはず。
 豆腐屋の女将は、上田の方へ走ってきた。
 ぶつかりそうになるので、上田は横へ避ける。そのとき女将の顔を見たが、鬼の形相。豆腐屋の女将が硬い鬼に変身したわけではなく、何か表情がおかしい。怒りの顔ではないものの、そんな顔の筋肉の使い方など、平常ではしないだろう。喜怒哀楽のレベルを超えている。
 上田は豆腐屋の前まで来ると、先ほどの日傘の婦人が起き上がり、豆腐屋の中で暴れている。
 近くには誰もいない。豆腐屋の女将は出たままなので、無人かもしれない。
 日傘の婦人は日傘を振り回して、その辺の物を叩き壊している。いったいどんな恨みがあるというのだ。それに助けてくれたのは豆腐屋の女将ではないか。
 上田は暑くて正常にそれらを見る判断を失ったわけではないが、何か朦朧としていることは確か。上を見ると眩しくてよく見えない。陽射しが強いのだ。
 それで、日陰に入り、駅へと向かう。駅舎は既に見えているが、その通りは無人。この商店街で一番賑やかなところなのに、誰もいない。
 左右の店屋を見ると、開いているのだが、人はいない。
 そして駅の方を見ると、人が出てきている。電車から降りてきた人達だろう。
 だがその人の群れが何かぎこちない。遠くからなので、一塊に見えるが、その塊の動きがギクシャクしている。
 上田は危険を感じ、横の店屋に入ったが誰もいない。大勢の人の群れが駅から湧き出て、こちらへ押し寄せてきていることは確か。
 その群れは全員走っている。駆けている。
 そしてどの顔もどの顔も凄い形相だ。
 上田は、店屋の棚に隠れ、行き過ぎるのを待った。
 そして、それまで見たことの感想を一言だけ漏らした。
 暑い日だ。狂う人もいるだろう。
 
   了




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2020年06月27日

3794話 木ノ株屋吉左衛門


「木ノ株屋吉左衛門さんのお屋敷は、こちらですか」
「屋敷というほどの規模ではないじゃろ。ここは裏長屋」
「あなたが木ノ株屋さんですね」
「旦那様はここにはいない」
「そうなんですか。少し商談がありましてな」
「じゃ、本邸へ行きなされ」
「そんなのがあるのですか」
「山の中じゃが」
「分かりました。場所を教えて下さい」
 商人は場所を聞き、二日ほど旅をし、三日目の宿場からその本邸へ向かったのだが、山を抜けないといけない。本邸は山中にあるといっていたので、覚悟の上だ。
 木ノ株屋吉左衛門は名うての商人で、つまり名高い。よく知られている人だが、店はない。店とは一般客に商品を見せる場所。だから見せ。木ノ株屋吉左衛門が扱っているのは、そういった品ではない。いわば商社のようなもの。
 そのため、立派な御店は必要ではないので、裏長屋に住んでいる。貧民窟なので泥棒も来ない。むしろ泥棒に出掛ける側。
 さて、その商人は川伝いに山を抜け、山小屋まで辿り着いた。そこまでは樵道がしっかりとあり、迷うことはなかった。ただ、山中なので、家はここ一軒。しかも小屋程度。
「わしが吉左衛門じゃが、何か用か」
 商人が商人を訪ねて来たのだから、用向きは分かっている。
「あなたが有名な木ノ株屋吉左衛門さんですね。お目にかかれて嬉しい限りです。伝説の人ですから」
「いやいやそれは昔の話、最近は故郷の山野に引き籠もっておる」
「ここが故郷なのですか」
「ああ、樵の息子で、ずっと山暮らし。だからこのあたりの山々が故郷じゃよ」
「里帰りといいますが、ここは里じゃなく」
「そう、山帰り」
 商人は何か美味しい話はないかと、用件を切り出した。吉左衛門はその手の客に慣れていたが、これといった話はない。あれば自分でやっているだろう。
「それでは私と組んで……」と商人は持ちかけた。美味しい話を持参、つまり土産持参だったようだ。
 吉左衛門はその話を聞き、乗り気になった。
 それには元手が必要で、出してくれないかと言われたので、吉左衛門は千両箱を取り出した。
 商人は百両でよかったのだが、千両箱をムシロに巻き、それを背負って山を下った。
 当然だが、中は石に変わっていそうだ。
 商人は里に降りたとき、そうではないかと、不安になったが、重さは同じ。
 そして旅籠でそっと開けてみた。
 中から出てきたものは、想像を超えていた。
 
   了





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2020年06月26日

3793話 血の雨


「蒸し暑いですねえ」
「梅雨ですから」
「でも雨が降らない」
「降った方がすっきりするのですがね」
「うちもそろそろ降らせましょうか」
「もうそんな時期になってますか」
「降らし時です。既に過ぎています。遅れると、もう降らせられない」
「そのままでもいいんじゃないですか」
「ここで一雨来ないと、いけないでしょ」
「そうですねえ」
「そのための密約はできているはずです」
「かなり経ちます」
「まだ、有効です」
「じゃ、降らせますか」
「大雨をね」
 それで雨が降ったのだが、降りすぎた。
「軽く降らせるつもりでしたが、これはやり過ぎだねえ」
「はい、大荒れです。逆に立ち直すまで時間がかかりそうです。ある箇所では壊滅的で、機能していないとか」
「しかし、大成功じゃないか」
「そうなんですが、成功しすぎました」
「そうなんだ」
「大雨を降らして、壊してしまったようなものです」
「血の雨を降らしすぎたようだ」
「そうなんです」
「しかし、蒸し暑かったのが、すっきりしただろう」
「はい、涼しくなりましたが」
「じゃ、いいじゃないか」
「私は去ろうと思っています」
「折角雨を降らしたのに」
「綺麗さっぱり流れ落ちましたが、落としすぎです」
「汚いものは洗い落とすべきだろう」
「でも、この大雨、不意打ちでしたから、汚い手だったと思いますよ」
「手段は選ばぬ。そうでないと、機を逸してしまう」
「でも去ります。手を汚しすぎました」
「君は功労者だ。功臣だ。高い地位が約束されておる」
「いえ、去ります」
「そうか」
 
   了






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2020年06月25日

3792話 実用品と観賞品


 世の中は色々なものがある。
 実用品と観賞品で分けてみると興味深い。普段使っているものはほとんどが実用品だが、見てくれのいいものがあるし、その形や色を気に入っている場合もある。実用性とは関係はないが、実用品の中にも観賞用が含まれている。ただ、それそのものが観賞品ではなく、飾っているだけのものではなく、実際に使っている。
 観賞品は観賞するだけ。また触れたりできるものは触るだけ。また香りを発しているものもある。それ以外にも色々とあるだろうが、実用性はない。
 だが、観賞品の中にも実用性のあるものもある。観賞用だが使えるのだ。むしろ実用品よりも使い心地がよかったりする。ただ、あくまでも観賞用で、実用性は低い。だが、低い実用性が何とも言えない趣があり、本来の実用品よりも優れていたりする。
 たとえば壺。何のための壺なのかは分かっている。瓶もそうだ。花を生けるのなら花瓶だろう。しかし、本来の使い方を一回もしないで、飾るだけのもある。これは最初から実用品として使うものではなく、最初から観賞用。しかし、使おうと思えば使える。
 国宝級の茶碗で、お茶漬けをすれば最高だろうが、そんな機会は誰一人としてない。だが、昔は普通にお茶を飲むための茶碗だったのかもしれない。
 実用品はないと困り、暮らしや仕事にも差し障る。靴がなければ外へは出られないだろう。下駄や草履があるので、問題はないという話ではない。
 これも実用的な靴、それはその人にとって都合のいい靴で、履きやすい靴だろう。靴なので履いていくらなので、それがメインになるが、色目や質感なども加わる。そこが気に入って買う場合がある。また履かないで飾っているだけの靴もあるかもしれない。個人の自由だ。
 怖い映画なら怖さのレベルの高さで、高いほど実用性は高い。怖い目に遭うために見るのだから。
 しかし、その実用性よりも、何らかの雰囲気が好きで、見ることがある。実用性としては低い。それほど怖くはない。だが、ホラー映画の部類に入っているので、怖いことは怖いが、弱い怖さ。
 この場合、実用性一点張りではないものが含まれている。
 実用性だけではなく、観賞性というか、趣とか、雰囲気とかの、今一つ曖昧なものにも価値があるのだろう。まあ映画なので、実用性という言い方はおかしい。全て観賞用だが、怖さを実用と言えるかどうかは分からない。
 しかし、観賞は非実用かというとそうでもない。気持ちの上で役に立てば、これは実用だ。
 また実用一点張りで遊びがまったくないもの。実用の塊のようなもの。それが意外と美しかったりする。観賞用としては最高級のレベルだとすれば、実用と観賞で分けられなくなる。
 実用品はリアルだが、観賞品はイメージだ。
 だが、どちらにもその要素があり、イメージ的な実用品もあれば、リアルな観賞品もある。
 分けると無理が出る。
 
   了




posted by 川崎ゆきお at 11:30| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月24日

3791話 普段


 普段、ないようなことがたまに起こる。しかし蛍光灯が切れたとかは普段あること。これを異変とはいわない。しかし、原因が分からないことで、いつものようにできないことが発生した場合、異変かもしれないと思うこともある。これはただ思っているだけだが、理由が分からないので、いくらでも広げられる。
 まさかそんなことまで想像していたのかと、怖いところまで考える人もいるだろう。所謂賢い人ではなく怖い人だ。そこまで考慮内に入れるわけなのだから。
 要するに理由、原因が分からないと、そのような憶測が飛び交ったりする。蚊のように飛んでいるわけではないし、また個人で完結しているようなことなら、頭の中から湧き出した蚊が飛びまわっているようなもの。数匹飛んでいるので、どれが正解の蚊なのかは分からない。
 人はそうして憶測の蚊を飛ばす。式神のようなもので、想像の怖さだ。それがリアルに見えてくると始末が悪い。それこそ式神にやられているようなもの。
 また、それらの蚊は妄想のようなもの。ただ、ごく一般的な常識的な蚊もいる。普通ならそう考えるだろうという程度の想像だろう。
 しかし最悪のことを考えてもいい。原因が分からないのだから、最悪まで入れてもいい。しかし、この最悪、どこまで掘り下げるか、または広げるのかは個人による。宇宙の崩壊まで考慮に入れる人は希だろう。日常内で起こった異変程度なら隣近所までの範囲。
 普段とは違うことは常に起こっている。それが単純なことで済む良性ならいいが、悪性になると一生付きまとう災難の始まりだったりする。だから切れが悪い。
 単純な良性の変化は一寸した偶然などで起こる。理由は簡単だったりするので、深く考える必要はないが、いつもの道が渋滞しているので、別の道から行くような解決方法をとったとき、意外とその別の道の方が本来の道で、それに気付くことがある。一寸した変化で、コースが変わったのだが、こういう揺さぶられ方も悪くはない。良い結果が出たのなら。
 変化を求めているときは、できるだけ変化があるようなコースを辿り、あまり何もしたくないときは、普段のコースを踏み続ける。
 そして普段といっても色々とあった流れの中で定着したような事柄で、最初から定番としてあるわけではない。だから、その人の普段着を見ると、その経歴が分かったりする。今はそれが普段着だが、そこへ至るまでに、色々とあったはず。
 そしてこの普段、色々と揺さぶられるので、普段も普段からそれなりに変化している。
 
   了




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2020年06月23日

3790話 地下街人


「話は聞いた方がいい」
「急いでいるものですから」
「じゃ、仕方がない」
 地下街に妙な人物がいる。急に通行人に話しかける。
「話は聞いた方がいいぞ」
「何でしょう」
 今度は暇そうな、別に急ぎの用もないような青年。
「聞く耳はあったか。それは幸い」
「何でしょう」
「この地下街、いや地下通りというべきだろう。地下道じゃ」
「ここは地下の商店街でしょ」
「拡張されてな。また、新しい穴を掘って広げておる」
「それが何か」
「この地下街は迷路。迷路にはトラップがある」
 要するに、こういう人物が飛び出してきて、話しかけてくるのだろう。
 青年は会話不足で、ここしばらく、はいとか、いいえとか、お願いしますとか、これ下さい。はいOKです程度の言葉しか発していない。長くて三ラリーほど、しかも短い。それで、会話に飢えていたのかもしれない。もしかすると喋れないようになっているのではないかとは思わないが。
「地下街には妙な通路があってな。そこに迷い込むと出てこれなくなる。これを不帰のダンジョンとも呼ばれておる。誰も帰れた者、戻れた者がいないので、その証言がない。だからあくまでも噂じゃが、実はそうではなく、戻って来た者もおる。そうでないと、そんな噂など流れんだろう」
「そうですねえ」
 青年はもっと長い目の返事をしたかったのだが、言葉が編めない。
「その話とは別に、わしが体験した話をしよう。何らかの参考になると思われるのでな。これは世の中には不可思議なことがあり、見た目通りのこの通りも、違う通りへと繋がっておる。わしはそのひとつの通りに入り込んだことがある」
「はい」
 はい、だけでは頼りないのだが、割って入るだけの質問もない。聞きたいことがあるはずだが、これも纏まらない。
「この地下街、地下二階まである。さらに実は繋がっておってな。地下の街ができておる。そこの人達は地上にたまに上がる程度。地底人ではなく、この地下街を普通に歩いておる人達と何ら変わるようなところはない。じゃが、違うのじゃ」
「あのう、そのう」
 で、青年は縺れた。
「わしはその地下の街に迷い込んだことがある。そして二度とそこへは辿り着けん。まあ、行けたとしてもどうなる。何も得るところがないはず。儲かるような話ではないが、何かの取引が出来そうな気がするが、入口が分からんようになったので、何ともし難い」
「よよよ要するに」
「ヨヨヨ?」
「いえ、咳き込んだだけです」
「君は咳き込むとヨヨヨとなるのか」
「はい、気にしないで下さい」
 青年の会話能力が少しは戻ったようだ。その調子だ。
「ああ、さて、何だったか。どこまで話した」
「取引」
「おおそうじゃ、そこまで話したなあ」
「そのあと、どうなるのですか」
 青年は普通に話せるようになった。それに自分で感動しており、妙な人物の話よりも、話せることで安心した。
「世の中には隠されたものが色々とあることをわしは知った。この地下街を歩いている者だけが人間ではない」
「う」
 青年は今度は本当に何も言うことがなかったのだろう。ただの合いの手になった。折角戻った会話力を活かせない。
「わしが話したいのはそれだけじゃ。何かのセールではないし、サギでもない。純粋なものだ。それだけを人に伝えたかっただけ。君はそれをよく聞いてくれた。それでわしは満足じゃ」
 青年は、特にコメントはなかったので、何も口にしなかった。
「じゃあな」
 と、妙な人物は歩きだした。
 青年はポカンとそれを見ている。
 久しぶりの会話だが、会話の中身は普通ではなかった。
 
   了


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2020年06月22日

3789話 浄土入り


 メインが崩れたとき、またはメインが変わったとき、それまでのメインは適当な扱いになる。もうあまり熱意がないのだろう。だからやる気はないが、放置するにはまだもったいない。ただ、気の向きが変わっただけ。
「最近よくなりましたねえ」
「そうですか。少し手を抜いていますし、あまり集中していませんが」
「それがいいのですよ。色々な思惑が軽減したためでしょ。あなたの本来のものが出ています」
「そうなんですか」
「それはあなたの欠点なのですがね。まあ、今までそれを抑えてきたのでしょう。出ないように」
「気が緩んだからです。注意します」
「その箇所を褒めているのです。最近よくなったと」
「いえ、悪い面が露出して」
「そこがいいのです。以前は色々と配慮し、悪いものは出さなかった」
「そうです」
「しかし、あなたの良さまで封印していたことになります」
「もうどうでもいいと思ったからでしょう」
「それです。その作用が効いているのです」
「しかし、それは、そうなるようにしてたのではなく、気が緩んだので、つい出てしまっただけで」
「意識が緩んだのですね」
「そうです」
「それがよかったのです。その方向で行くように」
「でも、もう辞めようかと思っているぐらい、気が乗らなくて」
「そこからが勝負なんです。投げやりな気持ち。これは君にとっては一皮剥けたことになるのです」
「でも低調です」
「その低さ。それが好ましい」
「おっしゃることが、全部逆のような感じですが」
「しかし、それを意識し出すと、またいけない。ここが難しいところでしてね。ですからあまりコントロールしない方がいい。当然私のいうことなど無視すればいい。参考にもしない。そういう心境になれれば本物です」
「非作為の作為ということですか」
「無作為の作為です」
「やはり何処かで作為してしまいます」
「間違った作為ならOKです」
「間違った作為?」
「そうです。まあ、錯覚でしょ。間違いです。だから間違いにずっと気付かない方がいいのです」
「それらはどういうことを差しているのでしょうか」
「自分を転がしていくことです」
「余計に分かりません」
「プラス思考ではなく、マイナス思考です」
「そちらの方が楽でいいのですが、それでは駄目でしょ」
「その駄目なことをやりなさい」
「はあ」
「やる気をなくしたとき、それは浄土入りとなります」
「また妙な」
「娑婆を意識しない世界。そこへ至るチャンスです」
「極楽浄土ですか」
「あなたにとってのね。分かりましたか」
「分かりませんでした」
「私の話がかね」
「はい、分かりません」
「分からない。それが一番」
 
   了


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2020年06月21日

3788話 犬棒


 カラッと晴れた梅雨の晴れ間。唐揚げのようにカラッとしている。油気はあるが、それは汗。それも流れ落ちるようなものではなく、汗ばむ以前の薄いもの。
 暑いことは暑いが松田は妙に元気。自転車を漕ぐペダルに勢いがある。その勢いで前の自転車をスラスラ抜くわけではなく、後ろから来ている自転車に追い越されなくて済む程度。しかし暑いのか、人も自転車も少ない。前方も後方も、人がいない。猫の子一匹さえいないというのは、逆だろう。猫を発見するより、人を発見する方が簡単だ。ただ街中での話で、山中や海原では別だが。何事にも例外はある。そして例外の中を生きているのがどうも自分らしいと松田は感じている。
 暑いさなか、昼の日向にウロウロしているのだから。
 そのウロウロも目的があってのことではない。何かを探してウロウロ、犬も歩けば棒に当たる式ではなく、ただのウロウロ。何かを見付けても、特に松田には変化はない。内にあるものが外の風景に視界を与えるようなもの。興味のないものなら視界に入っていても見ていない。
 松田はウロウロを楽しんでいるわけではない。ウロウロできるだけの背景がいる。ウロウロしているだけなら食べていけない。つまりお金がないと、ウロウロもできない。旅行ほどのお金はかからないが生活費がなくなるだろう。だから、有り金が切れる手前で仕事に出ないといけない。それがそろそろ近付いているところでのウロウロ。これは少し焦り気味で、安心してのウロウロではない。ウロウロにも心境がある。
 犬も歩けば棒に当たるはずだが、これは野良犬でも飼い犬でも繋いでいないことになる。放し飼いだ。野良猫は見ることはあるが、野良犬は見かけない。松田の子供の頃は町内に一匹ぐらいはいたものだ。また野原で子犬が捨てられていたりする。
 棒に当たっても仕方がない。棒なのだから。犬も頭を打って痛いだけ。それに前方に棒が立っているのに気付かないはずはない。だから、犬のことを言っているのではない。人間様のことだ。
 だから松田が棒に当たるとすれば、それは棒ではない。だが、犬にとっての棒に価値があるのかというとそうではない。犬の益にはならない。棒をどう犬が利用するかだ。有益なものとするか。
 背中が痒いので熊のように掻くのかもしれない。これなら、多少は良いものを見付けたことになるが、似たような背中掻きなら、いくらでもあるだろう。
 きっと犬は余所見をしていて、棒にぶつかったのだろう。では犬は何を見ていたのか。棒に気付かないほど良いものを見付けたのだろうか。
 人も歩けば棒に当たるのなら、松田も棒に当たるはず。しかし棒など見付けにくい。松田が思っている棒は一本の丸い杭のようなもの。丸太の細いタイプだろうか。棍棒のようなものかもしれない。そんなものがある風景は野原の柵とか、畑とか。
 しかし、犬は人を差し、棒は、棒ではなく某を差している。何かだ。だから棒をいくら探しても意味はない。
 要するにウロウロしていると、ひょんなものに出合うということだが、棒のようなものでは、あまり良いものではない。だが、それはまだ判断が早い。
 ただの棒だが、実は凄いものに突き当たった可能性もある。もしそうなら、ウロウロすることによる確率の問題。じっとしているよりも、良いものをゲットできる可能性の問題だろうか。
 だが松田は、そういった棒に当たったことなど当然ない。ウロウロしていて当たりそうになるのは人や車両だろう。電柱にぶつかるとかは、先ずないはず。
 犬も歩けば棒に当たるの、その棒。これはきっと有名な棒で、よく知られた犬棒だろう。
 
   了





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2020年06月20日

3787話 天狗剣


 戦国時代が去り、鎧武者が集団で戦うようなことはなくなった。主な武器は弓と槍。そして鉄砲の時代になっていた。
 太刀での斬り合い。実際の戦闘ではほとんどなかったのではないかと思われる。足利将軍義輝が襲われたとき、名刀を何本も使って戦ったとされている。そして免許皆伝の太刀の使い手。将軍なのだから武将としては最高峰にいる。その人が自ら剣を振り回していたというのは、もう最後の最後だろう。そして太刀は個人技だったのではないかと思われる。一対一とかの。
 しかし、この太刀がそののち流行ったらしい。剣術だ。実際の集団戦では役立たないが、個人の技として、また武家のたしなみとして、それを身に付ける人が増えたのだろう。
 それで、浪人者などが召し抱えてもらおうと、諸国をウロウロしていた時代。剣の達人は、かなり有利。
 さる藩で、御前試合が行われた。恒例だ。他の藩でもやっている。つまり藩主という御前の前で武芸を披露とするということだ。
 そこに登場した若き松之丞という少年に近い青年が、あっという間に決勝戦まで残った。
 どこをどう突こうが、隙があるようでない。斬りかかると、するりと交わされる。これではどこにも打ち込めない。逆にほんの僅かな隙にさっと切っ先が入る。それが見えないほど早い。だが、決して相手は隙を作ったわけではない。
 これはとんでもない少年剣士が現れたと藩主は喜んだ。召し抱えれば自慢になる。
 そして決勝戦。これも、簡単に仕留めてしまった。これで、優勝が決まったのだが、藩の師範代が私が相手だといって飛び出した。これも恒例だろう。
 それも簡単にやっつけてしまったので、文句なし。
 ところが、立会人の中の一人の老人がしゃしゃり出て、何やら殿様に話しかけている。
 藩主は、うむうむと聞いている。そして、分かったとばかり、少年剣士に尋ねた。どうしてそんなに強いのかと。
 すると少年剣士は山で天狗から習った経緯を長々と話した。
 殿様は、しゃしゃり出てきた老人と目を合わせる。老人は首を振った。
「失格」
 少年剣士は御前試合の決戦で勝ち、さらに藩の師範代に勝っているのだ。それが失格とは理解できなかった。
 要するに、この少年剣士、自分の力ではなく、妙な力で勝ったのだ。
「よって不公平なり」
 と、判断された。
 
   了
 


posted by 川崎ゆきお at 13:38| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月19日

3786話 細く深くの果て


「行き詰まったのですが」
「そんなことを言いに来たのかね」
「いえ、別に困ってませんが、一寸感想を述べたいと思いまして」
「私に聞いてくれと」
「そうです。聞いて欲しいのです。そういうのを聞いてくれるのは奈良さんしかいません。ベテランですので」
「しかし、もう一線から外れたところにおりますから、今のことは疎いですよ」
「いえ、長年の経験から」
「さあ、で、何でしょう」
「行き詰まりました」
「それは先ほど聞きました」
「何とかなりませんか」
「細く深く、深く細くでしょ」
「その通りです。これがまた苦しくて苦しくて、それこそ先細りでして」
「よくあることです。普通です。それを困ったとは言えません」
「だから、それほど困っていませんので、深刻でないので、ただの感想です」
「先細りでしたね」
「そうです」
「先細りという症状。ありますあります。よくある。次に多いのは中折れ。これは途中で折れてしまうわけです」
「折れていませんが、細いのです」
「それは仕方がない、先へ行くほど道も狭くなる」
「それでは淋しいというか、やることが減るのです」
「そうですねえ。暇でしょ」
「はい」
「広く浅くもありますが、それでは使い物になりません」
「そうでしょ」
「その場合」
「何かありますか」
「私の経験でしか語れませんが、いいですか」
「それを期待して、聞きに来たのです」
「色々と言い方はありますが、その一つが切り口を変えるということです」
「それは広く浅くと同じじゃないのですか」
「そこが、少しだけ違うのです。違うところを切るのではありません。切り方を変えるのです」
「ほう」
「分かりましたか。これだけで十分ヒントになりますよ。すぐにピント来る人もいます」
「要するに価値感を変えると」
「良いことをいう。正解です」
「そんな簡単なことなのですか」
「しかし、思い当たるでしょ」
「確かに」
「一つのことばかり狙っていると、どうしても先細りします。その一つは、あくまでも一つでして、色々ある中での一つなのです。しかし、その一つが一番目立ちますので、他にも色々あっても、あまり相手にしません。価値が低いと思うからでしょうねえ。それにその気も起こりません。その気が起こるのは先細りして、先が厳しくなったときです」
「今が、そうです。厳しいというわけじゃなく、淋しいです」
「その一つの道、先細り。それが本家だとすれば、分家もありということです。本家はひと家ですが分家は複数、それこそ無数にできます。また分家が本家を超え、そちらがむしろ本家になることもあります。これは時代によってそうなるのでしょうね。その分家の雰囲気と今の雰囲気が合っているとかでね」
「もうそれ以上説明を聞かなくても、分かります」
「そうでしょ。その道もあると、誰でも分かっているのです。あなたもそのはず」
「本家では軽くしか扱っていないものでも、分家では、それを大事に扱う。これですね」
「そうです」
「ありふれた話だったのです」
「そうです。昔からあります」
「有り難うございました」
「分家を作りなさい」
「はい」
 
   了





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2020年06月18日

3785話 錬金術


 柴田は最近熱中することができたので、暇をそれで潰せた。一日があっという間に過ぎるほどで、時間が足りない。いつもなら寝るまでの時間が長く、早い目に寝てしまったり、夕食までの時間が長く、早い目に食べていたりする。朝は早く起きてもやることがないので、好きなだけ寝ていた。しかし、それほど眠れるものはない。それに昼寝もするので、もう睡眠時間もパンパンで、それ以上暇潰しとして使えない。
 時間だけはふんだんにあるが、やることがない。それで、意味もなく近所を自転車でウロウロしているのだが、これは一定時間、何とか時間を消費できる。ただ、見慣れた風景ばかりなので、飽きてくる。
 そんな状態のとき、やっとネタを見付け、それをやり始めた。今までの生活が嘘のように違ってきた。良いことだ。やること、熱中することがあるのは仕合わせな話。
 昼食も夕食も忘れるぐらいだが、腹がすくので、決して食べないで過ごすわけではないが、これはもう適当なものを食べて、空腹を満たすだけの食べ方になっている。以前なら夕食が楽しみで、食べるものを考えるのが仕事のようなものだった。今は何でもかまわない。口に入るものなら。
 こんな経験は柴田にも昔はあったような気がする。うんと若い頃、十代か二十代初めの頃だろう。
 今は熱中できるものなら、何でもいいようで、一日がそれで充実すれば、それでもう満足。当然その成果を期待しているが、これは社会的に有為なものではなさそうなので、大した価値はない。価値は暇潰しとして貢献することだろう。
 それで柴田は生き生きとした幸せな日々を送っていたのだが、限度、限界というのがある。尽きてくるのだ。徐々に飽き始めるし、やることが減ってくる。先が見えてきた感じで、底が分かり出す。
 最初の頃は大海原が拡がっていたのだが、今は向こう岸が見える。
「良いネタを見付けたようだね、柴田君」
「はい、しかし、そろそろです」
「先が見えてきましたか」
「はい」
「そこからが勝負ですよ」
「そうなんですか」
「誰にでも行けるところがあります。そこまでは意外と簡単。しかし、あるところで止まります。ここからが勝負なんです」
「はい」
「もう飽きましたか」
「飽きていません」
「それはよろしい。良い感じです。しかしネタが切れかかっているのでしょ」
「いや、あるのですがね」
「ストレートに進むとそうなります」
「はあ」
「認識を変えてみなさい。そんなに奥まで行かなくても見付かるはずです。ゴミのような物を宝に変えられるのです」
「ほう」
「錬金術です」
「はい、やってみます」
「ただし、金は作れません。しかし作れるかもしれないというのがミソなんです」
「はい、やってみます」
「ご苦労なことで」
「暇になるのがいやですから」
「うむ」
 
   了




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2020年06月17日

3784話 調略の果て


 戦国時代の調略。これは武力ではなく、外交のこと。調略で敵の城を取る。刃向かう敵では被害が出る。だが敵の本拠地ではなく、その周辺の城は取れたようだ。
 これは世の流れを説き、また敵味方の優劣などを説き、無駄な戦いをしないで、我が方の人になれということを懇々と説く。また誠意を見せる。これが上手かったのが秀吉だとされている。悪くいえば人たらし。元々百姓なので、武家としてのプライドなど、後付けだろう。
 その調略で、敵の一城を先ず取った。敵としては寝返ったわけで、主を裏切ったのだが、主から与えられた土地の館主ではない。元々、その地の支配者だった。だから自治国のようなもの。数ヶ村を差配している。当然主筋への貢ぎ物や、主筋からの頼み事は聞かないといけないし、人や金銭も出さないといけない。本城の領主とは主従関係になっているが、これは浅いもの。
 草加城主はそれで敵側に寝返ったのだが、その見返りは千石が二千石になること。戦いに参加しなくてもいいというもの。これは流石に主従関係にあっただけに、そこまでの協力は必要ではないらしい。それよりも黙認すればいい程度。だから戦いになってもじっとしておれということだろう。
 今までの領主、これは一国の主で数十万石レベルの大名だ。しかし、代が変わり、人望がなくなった。
 草加城が寝返ったことは何となく、その周辺の城城にまで伝わった。あくまでも噂だが。
 そして、他の城城にも、その調略が入っている。
 草加城の隣りにある赤坂城には、それが来ない。重臣のためだろう。寝返るような相手ではない。
 しかし、赤坂城の赤坂氏は重臣とはいえ、格下の草加城と同じ石高。これが気に入らない。重臣でも端っこの人物で、長く家老をしているだけで、信認が薄いのだろう。それに、敵が頻繁に調略をかけ、既に寝返っている城が多い。これは負けるなあと赤坂氏は思うのだが、何ともならない。しかし、何とかしないと負ければ赤坂城も落とされ、赤坂氏も亡びる。これは何とかしないといけない。
 赤坂氏の当主は若いが、その祖父が敵の本拠地へ乗り込んだ。既に戦いが始まるような雰囲気があり、国境近くには互いに兵が出ていた。
「赤坂殿がお見えです」
「誰じゃ」
「草加城の横の」
「赤坂といえば敵の重臣」
「はい、その方がお見えです」
「用件は」
「寝がいりたいと」
「それはなあ、どうかなあ」
「お話しだけでも、お聞きになられては」
 この外交家は赤坂城には何も仕掛けなかったし、調略で落とす気は最初からない。手強いのではなく、領地安泰どころか、倍ほど与えないといけない。
 赤坂領は、草加に餌として与えている。
 そして、詰めの話となる。
「何とかなりませんでしょうか」
「困ったなあ」
「領地安泰だけで、それ以上の恩賞は必要ではありません」
「草加との約束がある」
「駄目ですか」
「草加殿を裏切るわけにはいかん」
「分かりました。では無血開城では如何ですか」
「それなら、追放だな。命だけは助ける。好きなところへ行けばいい」
「それでは先祖代々の家来や領地が」
「何とかしたいのだがなあ。殿が許すまい」
「分かりました」
「悪いなあ」
「いえいえ」
 そして、いよいよ開戦となったのだが、意外と進展がない。敵の勢力はかなり減ったはずなのだが、本城に近付くに従い、手強くなり、戦いは膠着状態になった。
 そのすきに、赤坂城から兵が出て、寝返った草加城を襲撃した。そして、見事落とした。
 あのとき、赤坂氏が寝返るといったのに、それを聞き入れなかったためだろうか。逆に寝返った草加を裏切り者として成敗する名分を与えたことになる。これがきっかけで、戦いは逆転した。
 赤坂氏は先祖代々の領地を倍にした。与えられたのではなく、自分で切り取ったのだ。
 
   了





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2020年06月16日

3783話 キャラ立ちぬ


 何でもない人物。しかし何かあるだろう。何もない人物なら、それは存在さえしていないようなもの。ただ、何が何だろう。この何かというのが曲者で、何かを差している。何かが何かを差している。きっと見るものの価値観で何かが違ってくるのだろう。
 黒田は何でもない人物。まあ、あまり目立たないし、特徴もないし、キャラが立っていないキャラだろう。だから覚えにくいし、印象にも残らない。だが、少しは何かがある片鱗が見え隠れすることがある。だから、たまだ。これを見抜く人は希。これも見る側の価値観と関わってくる。
 車が通っていない横断歩道でも、信号があるので、黒田は立ち止まっている。あとから来た人は、サッと渡る。次に来たママチャリの人は当然のように渡っている。
 向こう側もそうだ。さっさと渡っていくのだが、先ほどから一人だけ、立ったままの人がいる。どうも黒田の視線が気になるようだ。渡ると咎められるのではないかと。
 やがて青信号になり、二人は交差するように渡る。すれ違い際、「できるな」と、一言、黒田に呟く。
 交差後、さっと黒田は振り返ると、相手もさっと振り返り、身構える。こんなところで、ストリートバトルが始まるわけではない。ただのすれ違い際。互いに相手の目さえ見ていない。
 これで、黒田のキャラが立ちそうになるが、曖昧。何がどうなのかが分からない。
 だが、相手の人物、黒田以外では、そんな態度に出なかったかもしれない。信号も皆と同じように赤でも渡る。見通しがよく、車の姿などない。何故、こんなところに信号があるのかは分かっている。小学校の通学路に当たるためだろう。
 道路を渡ったあと、黒田は駅へ向かう。いつも吠える犬のいる家がある。犬は生け垣の向こうの庭にいる。誰が通っても吠える。五月蠅いので飼い主は反対側の余地に繋いでいることが多いが、犬は表通りに面した庭が好きなようだ。
 その犬、黒田が通っても吠えない。そして尻尾を下げている。
 黒田のキャラが立ち始めた。しかし、それがどうしたのだ、というようなもの。
 その先に野良猫が何匹かいるが、人が近付くと、ある距離に入った瞬間、さっと逃げる。
 黒田が近付いても猫は逃げない。黒田は猫に対して何も思っていないし、可愛いとも思わないし、また猫など相手にしない。
 だが、猫は黒田が通り過ぎるまで、じっとしている。黒田に懐くようなことはなく、何か呆然とした状態。黒田の姿が見えなくなってやっと我に返ったようになる。
 黒田のキャラが立ち始めた。しかし、これがいったい何だというのだろう。
 そして電車に乗り、出社し、普通に働いている。特に仕事ができるわけでもないが、地味に熟している。目立たない存在。
 そして、同僚は多くいるのだが、友達は一人もいない。
 分かりにくいキャラだが、何かがある。その何かのド本命になるようなことにでも巻き込まれなければ、その本性は出ないまま。
 そういう人がたまにいるものだ。
 
   了


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2020年06月15日

3782話 梅雨入り


「雨ですなあ、昨日も降っていた」
「梅雨入りです」
「あ、そう」
「それだけですか」
「何が」
「一節あるんじゃないですか」
「?」
「蘊蓄ですよ。雨に関して一蘊蓄あるんじゃないですか」
「一節太郎じゃあるまいし」
「じゃ、いいのですね。雨は雨でも梅雨の雨ですよ。何か語りたいでしょ。吹きたいでしょ。唸りたいでしょ」
「いいや」
「あら、元気がありませんねえ。私、覚悟していたのですよ」
「下手な浄瑠璃を聞かされるようなものかね」
「病院に行った人もいます」
「聞いてかね」
「そうです」
「君の方が派手に吹くじゃないか」
「いえいえ、それで、梅雨の話題はスルーしていいのですね」
「どうぞ」
「何かおかしい」
「別に」
「毎日天気の話をするじゃないですか。今回はただの雨じゃないですよ。初物です。梅雨入りなんですからね。普通の雨じゃない」
「君の方が語っているじゃないか。わしは静かにしておるのに」
「そうでしたか。でも、おかしいです。何かあったのですか」
「何もない。梅雨など珍しくも何ともない。毎年この時期になると雨が続くじゃないか。そんな分かりきったことを話しても、仕方ないじゃないか」
「始まりましたね」
「何も初めておらんぞ」
「いえいえ、どうぞ続きを」
「この長雨を何故梅雨というのか。何故梅なのか。梅など冬の終わり頃の話、今の花とは合っておらんじゃないか」
「来ましたねえ」
「しかし、梅の花ではなく、そのあとじゃよ」
「梅のあとは桜でしょ」
「いや、咲いたあと、何が始まる」
「梅祭りとか」
「違う、次は実を付けるのじゃ。そうでないと、花など必要ではない。実を付けるため。つまり梅の実じゃな。これが君、今の時期から青くなる。実るんじゃよ。その梅の実を見ているとき、決まって雨が降っておる。しかも長雨で、晴れた日に梅の実を見ることなど希、それで、梅の雨と書いて梅雨ということになった」
「本調子ですねえ」
「しかし、何故梅なのか。そう名付けたのは梅農家じゃあるまい。これは公家連中が臭い。都の庭に咲く梅とかな。それを見ての詩情だよ。菅原道真も言い出しそうだ」
「掘り下げてきましたね。ちゃんとネタを繰ってこられたのですね。準備していたじゃありませんか」
「しかし、梅干しは今でもよく見かける。年中あるのでな。だから梅は季節ものじゃが、梅干しはそうはいかん。やはり木の枝についておる梅の実でないと、成立せん」
「では、そこまでですね」
「何が」
「一節、聞きましたので、ここらで、終われば被害は少ない」
「何が被害じゃ。わしは梅毒か」
「いえいえ」
 
   了





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2020年06月14日

3781話 草むらの中の会社


 だだっ広い敷地。水平線が見えるほどには広くはないが、取り囲んでいる建物が遠いため非常に小さく、横に並んでいるように見える。敷地内は草が生い茂っており、畑もあるが、草が多い。自然に任せていても、季節になれば枯れるし、それほど伸びる草はない。ただ、蔓が結構伸びている。ただし横にだ。これが一つの茎から出ているとは思えないほど拡がっている。
 敷地内の端に建物があり、人の姿が見えるのはそこだけ。三階建てのビルだが、数人がいるだけ。ビルと公道とは比較的近い。元々私有地だったのだが、その道は公道になっている。敷地内に沿って走っているが、交通量は少ない。人も車も、このあたりには来る用事がないし、通り道でもない。敷地の端に川があり、それなりの川幅だが橋は架かっていない。これも渡る用事がないためだろう。当然向こう岸の街からも。
 鶴岡はここで勤めるようになったのだが、若くはないが、新入社員。長く正業に就かないで、ぶらぶらしていたのだが、その間、考えていた夢のようなものが、実現しそうにないことが分かったので、就職した。
 一応事務職だが、ワードもエクセルも知らなくてもいいらしい。条件としてない。
 初日は挨拶しただけで、帰った。
 帰っていいというのだ。
 初仕事が、帰っていいというのは、ほっとする。どんな仕事かは分からないが、慣れない事務など、できるのだろうか。簿記も珠算も知らない。知っているものとみなされて、さっと仕事を命じられると恥をかく。まあ、どんな職種でも新米はプレッシャーがかかるし、また知らないこと、やったことのないことをするのは緊張する。その初日だけで、辞める人もいるだろう。
 しかし、帰っていいというのだから、その難を避けることができた。実際には後回しになっただけだが。
 鶴岡はビルの裏側の窓から、広大な敷地を見る。以前何があったのかは分からない。しかし、所々古い建物が残っている。だが、草に覆われ、それが建物なのか、草の塊なのか、分からないほど。
 風景としてはいい。
 鶴岡は、ビルから出て、歩いて最寄り駅まで歩いた。駅に自転車を止めておけば楽かもしれない。結構遠い。
 明日から何をやらされるのかは、少し心配だが、今はまだ朝だ。駅前に繁華街はあるが、遊びで寄るには早すぎる。
 世の中には不思議な仕事場もあるのだな、程度で、その日は大人しく部屋に戻った。前日興奮して眠れなかったので、帰って寝る方がいい。
 鶴岡の出社第一日目は終わったが、出社しただけだった。
 
   了

 

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2020年06月13日

3780話 機嫌の良い風景


 岡田は今日もその道を自転車で移動している。用事で出るとき、いつも通る道。昨日と同じような風景が続き、明日もそれほど変わらないだろうが、天気により風景は一変する。その天気は日々違う。だから一日として同じ風景ではないが、数日前の風景とほぼ等しいほど似ている。当然一日の中でも時間によって天気が変わることがあり、それらを考慮すれば、結構日々変化はあり、同じような風景ではない。いつも見慣れた風景といっても、ずっとそれが続いているわけではない。
 そして日々の用事。これも昨日と同じような用なのだが、やはりここでも違いがある。長く換えていない便所のスリッパ。何処かで買う必要がある。台所のスリッパもそうだ。そして靴下もゴムが緩んでいる。古い靴下なら何足もあるが、揃っていなかったりする。色の近いのならあるので、それを履けば何とか誤魔化せる。靴とズボンとの間の僅かな隙間。そこからしか靴下は見えない。それに岡田は長い目のズボンを履いているので、靴下が見えるとすれば、座ったときだろう。しかし、誰も岡田の足元など見ないだろう。余程妙なことになっていない限り。
 そういう買い物などの用があるのだが、それはついで。見かけたときに買えばいい程度。
 用事で外に出たとしても、急ぐような用件ではなく、平和な用件だ。しかし、何を買うのかは日々違う。米が切れておれば米を買う。
 同じ道を、昨日と同じように自転車で移動していても、同じではない。そこに体調などが加わると、向かい風や坂道でもないのにペダルが重い。当然調子の良いときは軽い。これも日々違うが、分かっている変化。だから気にする必要もない。
 しかし、この何でもない道を平凡な用事で移動するというのは、結構良い状態なのだ。悪い状態なら、それどころではない。体調も、かなり悪いと自転車に乗れなかったりする。それ以前に歩くだけでも大変なこともある。まあ、怪我や病気のときはそうなる。
 さらに日々の勢いというのがある。これは生き生きと何かをやっている日は、移動も軽快。シャキシャキしている。まあ、そんな日は長く続かないので、やはり怠いような移動になる。
 機嫌良く暮らすというのは結構難しかったりする。そんなに良い機嫌が続くわけではないため。これは軌道に乗っている状態だろうか。順風で、風が帆を膨らませ、スーと進む。それが理想だろう。
 そのため、機嫌の悪い風景と機嫌の良い風景がある。
 岡田の目的は機嫌の良い風景へ持っていくこと。これは単純なようで、なかなかそうならないのが普通だろう。機嫌は結構手強い。
 
   了





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2020年06月12日

3779話 今日も休む人


「今日はのんびりしたいねえ」
「いつも言ってますねえ」
「そうだったか。しかし今日はのんびりしたい」
「昨日ものんびりとしていたじゃないですか」
「そうだったか、結構慌ただしかったけど」
「まあ、ペースは人それぞれ」
「そうだね。私はゆっくりがいい。そしてのんびりが。もう年だからね、急いでやっても先が見えておる。大した成果は上がらんし、精一杯やってもやらなくても似たような結果。それじゃ、のんびりやった者勝ちだよ」
「それだけが理由ですか」
「今日のように暑い日は動くと辛い。疲れる。いい気候の頃の倍は疲れる。じっとしているだけで疲れそうだからね。だからのんびりとしていても、結構疲れるんだ」
「若い頃はバリバリ働いていたと聞きますが」
「そうだね。将来があったからね。そのうち、やってもやらなくても大した違いは起こらない。先輩の高見さんを見てご覧。あの人は怠けの天才だ。あんな人でもやっていけるんだ」
「しかし、最近厳しくなりましたから、下手をすると首ですよ」
「そうだったか。そんな風には見えんが」
「まあ、上ものんびりしているからでしょ」
「そうだね。やってもやらなくてもいいような仕事だからねえ。まあ、それを言っちゃあおしまいだが」
「ところで今日はどうします。早退ですか」
「いやあまり早退が続くと、流石の私も気が引ける。今日はここで休憩してるよ。仮眠室、空いてるだろ」
「山城さんが入ってます。そのあと三河さん、川口さんが順番待ちで」
「生意気な」
「いえいえ、皆さん徹夜でしたから」
「あ、そうだったか」
「主任が休まれるのなら、私も休みますが」
「それは君が判断してくれ」
「そうですか。ここじゃ流石に休めませんから、早退します」
「そんなことしなくてもいい、記録に残るから。外に出て、遊んできなさい」
「いいですか」
「ああ、用事を言いつけたことにする」
「はい」
「そのまま家に帰りなさい」
「有り難うございます」
「いやいや」
「主任はどうなされます」
「仮眠室、並んでいる状態だから、仕事でもするか」
「そうなんですか」
「いや、仕事が一番休めたりしてね」
「あ、はい」
 
   了



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2020年06月11日

3778話 第三分室と鳴門金時疑惑


 繁華街の外れの雑居ビル五階にある第三分室。そこに一人だけで勤めている田中は仕事がないので暇なため、毎日のように市場調査、つまり散歩に出ている。
 そんなある日、珍しく本室から電話があった。運良くオフィスにいたので、散歩はバレなくて済んだが、別に外室禁止ではなく、休憩時間もあるし昼休みもある。ただそれが長いだけ。
 本室からの用事は、第一分室、第二分室までで第三分室まで回ってくることはないのだが、たまにある。前任者など、一度もなかったらしい。それで退屈しきって退社したが、年齢的には退職年齢。かなりの退職金をもらったようだ。
 それで、命じられたのは買い物。そして買ったあと、すぐに第二分室に届けること。それだけだ。
 たまに来た本業が子供の使いの八百屋での買い物。そんなことでいいのかと思いながら、しばらくそのことは忘れていた。
 そのあと世間を騒がせるような疑惑事件が起こった。汚職のようなものだろう。よくあることなので、田中は気にも留めなかったが、テレビで始終やっているので、見る気はなくても見てしまう。それに他のメディアでもやっている。旬の事件。田中も一応会社員、だから社会人としての常識として、知っておくのも悪くはない。
 問題は賄賂だろう。金を渡して、有利に話を持っていく。それで、証拠が出たらしいが、それが安っぽいファイル。書類を挟む薄いシートだ。その中にメモが入っていた。それが証拠らしい。
 それで、関係者が国会に呼び出されている。これをどう説明するのかと。
 疑惑に対する釈明のようなことをしている大きな男がテレビに映っている。田中は見たことがある。それにあの安っぽいファイルも。中身までは見ていないが、本室に届けたことまでは覚えている。その人、音羽といったようだ。
 そして、音羽の後ろにいる人が、さっとレジ袋を音羽に渡した。
 そしてそれを開け、中からサツマイモを取り出し、一本、二本と示した。
 鳴門金時三本。というのがメモの中身。鳴門金時とはサツマイモの銘柄、四国産だろう。
 田中は仰天した。先日自分が買ったものだ。
 鳴門金時三本で三億円。
 音羽は八百屋のレシートを示し、消費税込みで一本百円。そして合計三百円と説明した。
 そして、補足として、八百屋の大将は買った客に景気のいいかけ声のように、「へい大根一万両」などというものだ。それが一億円だったとしても、誰もそんな金は払わない。百円だ。しかし、一億円のところを百円で買えるので、いい気分になれる。そういうことだと国会で説明した。
 また、八百屋の大将のことを軍の大将とは誰も思わない。しかし、大将と呼ばれても、誰も誤解などしない。それと同じことだと。
 田中は仰天したというより、自分がこの前、赤ら顔の親父がやっている八百屋で買ったサツマイモがテレビに映っているので「おお」と思ったのだ。
 
   了





posted by 川崎ゆきお at 14:09| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする