2010年09月05日

千字一話物語 第1168話 本の妖怪


 妖怪博士は訪問を受ける。
 毎月やってくる妖怪博士番の編集者だ。
「今日は妖怪談ではなく、出版のお話できました」
「いつも、出版のためにきているんじゃないのかね。記事を取りに」
 その編集者は雑誌の編集部に所属しているが、妖怪博士の話を載せたのは一度だけで、それからは趣味できていた。
「出版とは本を出すことかね」
「はい、雑誌ではなく本です」
「誰の?」
「博士の本です」
「君の本じゃないのかね」
 編集者は意味が分からない。
「つまり、君がわしの話を聞いて、それを書き留めて、本にするのじゃないのかね」
 編集者は毎月話を聞きにきていたが、メモさえしていない。
「博士に書き下ろしていただきたいのです」
「何を」
「何をって、妖怪の話ですよ」
「ああ、それはいいが」
「是非、お願いします」
「ということはだ、今日は仕事できたのかね」
「そうです。出版社の編集員としてきました」
「君は雑誌だろ、単行本もやるのかね」
「はい」
「そういえば長く本など出しておらんのう」
「是非」
「しかし、今から書くのは面倒じゃ。喋るから君が書きなさい。インタビュー形式で作れるだろ」
 編集者はレコーダーを取り出す。
「はい、それでもよろしいです」
「しかし、喜ばしいことじゃ、本ができるのだからな」
「では、適当にスタートしますので、よろしく」
「初版は何部だ」
「はい」
「印税は?」
「三割です」
「そんなにいいのか。相場は一割だろ」
「はい、書き下ろしですから」
「それでもすごい印税だ。千円の本だとしても三百円ほどになる。一万部出せば三百万だ」
「契約書は後ほど」
「かけうどんが天ぷらうどんになる。食パンだけからサンドイッチになる」
「あのう、妖怪談をお願いします」
「ああ、いつものように話せばいいのじゃろ。毎日きなさい。そうすれば一週間ほどで一冊分になる」
「あ、はい」
「久しぶりに本屋に寄ったとき、わしの本がある……。その存在意味は大きい。下世話じゃがな」
「あのう……」
「わかっておる。妖怪の話をするから」
「本屋にはありません」
「え」
「電子書籍です」
 妖怪博士は電子書籍についての話を編集者から聞く。印税三割は売れた分に対してのみ支払われ、本はパソコンや電子書籍端末がないと見ることができないことなどを。
「それこそ妖怪じゃないか」
「はあ?」
「書籍の妖怪じゃよ」
 
   了
posted by 川崎ゆきお at 20:46| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする