2016年09月21日

3027話 亀ノ下


 亀ノ下下がるところの素人屋に住む占い師がよく当たるだけではなく、厄払いなどもしてくれた。というようなことが書かれた紙切れを高島は見付けた。誰が書いたものなのかは調べれば分かる。先代の誰かだろうが、それほど遠くはなく、明治か江戸時代の人だろう。そういう書き付けが何枚も挟まっていたのだが、誰も整理することなく、そのまま行李に詰め込まれていた。
 そこは旧家の蔵で、家人に聞くと、何代か前の当主の四番目の弟らしい。家を出ないで、ずっと住んでいたようだ。そのため、縁が薄いためか、亡くなったあと、僅かなものだけを行李に詰め込み、整理したらしい。
 高島にとり、ここは本家筋だが、もう他人のように血は薄い。実際には、今の当主と血は繋がっていない。何代か前に跡取りができず、養子をもらっている。だから、本家の四男坊の遺品など見向きもしなかったのだろうが、捨てはしなかった。その蔵はもう使うような用事ものないので、滅多に蔵などを開けることもなかったようだ。
 そんな本家の四男坊よりも、占い師が気になった。亀ノ下下るとあるが、亀ノ下を、下に行ったところ、おそらく南側だろう。
 この亀ノ下はすぐに分かった。地名として残っていないが、路肩に大きな石があり、それが亀に似ていることから亀石。土地の人はそこを亀の下と呼んでいた。下ではなく、亀石周辺を指すのだが、下と呼んでいたのは、元と言うことだろう。
 早速高島は亀の石を発見する。路肩とはいえ、それなりに膨らみがあり、三角形の公園のようになっていた。遊具など置ける場所はないので、亀の石を保存するのが目的だろう。
 そこから南側への道などない。道は東西に走っているので亀ノ下を下るとは南を指すのだがそうではないようだ。この町は結構古いので、道はそのまま明治時代と変わらないだろう。町屋があった通りらしい。古そうな家があり、もう営業はしてない呉服屋などがある。看板だけが残っていたりする。
 南ではないが西側に狭い路地がある。通りから少し行ったところだ。高島はその路地に入るとすぐに下り坂になっている。これだなと合点がいったようだ。確かに亀ノ下から下がるだ。
 路地と言っても車は入れるようで、旅館の看板が見える。昔で言えば商人御宿だろうか。町屋が並んでいる通りの裏側なので、それなりに泊まり客もいたはず。
 さて、亀ノ下を下ることは下ったが、江戸か明治の昔の占い師の家など見付かるはずがない。しかし、高島と血の繋がりのある先代当主の四男坊が、ここを歩いていたことは確かで、その祈祷師か占い師か知らないが、その人と会っていたことも事実。
 事実はそうでも現実には何もない。通りや旅館はその時代からあったはずだが、占い師が住んでいた家まで特定するのはどだい無理な話。
 路地を進むと、さらに横へ伸びるもっと狭い路地があり、丘があるのか上り坂もある。その坂の下に亀井戸と書かれた先が三角の板がある。傾いており、井戸はあるが四角く縁取った石組み程度のものしか残っていない。埋めたのだろう。底はない。
 その先祖への興味よりも、この場所を高島は気に入った。
 亀の占い。これは太古にあった。亀の甲羅を焼いて、そのひび割れの模様で占うものだ。だから、この亀石周辺は占いの町だった可能性もある。偶然占い師が多くいたためかもしれないが。
 当時は有名だったので、その四男坊も物見遊山的に、ここを訪れ、占ってもらったのだろう。そして、当たったので、それを紙切れに書いた。紙切れは束になって出てきたが、それらは殆どが日常的なメモ程度。借用書や証文、念書のようなものも入っていたが、亀ノ下下がるの占い師だけが目立った。
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 09:22| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする