2016年09月26日

3032話 子泣き爺リュック


 古墳か遺跡が発見され、その後しばらくしてから見学会があった。新聞にも少しだけ載っている。大まかな調査が終わったのだろう。結局ありふれた縄文時代の住居跡と古墳とが一緒になっていた。縄文時代と古墳時代とでは年代が離れすぎている。だから、古墳時代の人も、そこに縄文人の家跡があったことなど、もう古すぎて分からないのだろう。
 説明会は最寄り駅からバスか徒歩で向かうことになるのだが、バスの便が少ない。これなら歩いた方が早いとなり、竹村は歩くことにした。同じように電車から降りた見学客が、竹村の前を先に歩いている。見学会へ行く人だとは雰囲気で分かるので、これで地図を広げる必要はない。
 竹村と同じ趣味人だろう。こういう日に着るアウトドア用の服装で身を固めている。竹村はいつも着ているようなラフなものだが、靴だけは高いのを履いている。運動靴だが防水性がある。しかし、夏場は蒸れる。
 竹村の方が背が高いので歩調も早いのか、すぐに横に並んだ。このまま追い越せば地図を開けないといけなくなるので、その人と同行することにした。
「古墳ですか」
「そうです。一時間もかからないでしょう。場所は頭に入っています。それに見晴らしが良いので、分かりやすい。それに周辺を見ることで、理解も深まります。ここは細長い盆地のようで、山の斜面がなだらか」
「はい」
「縄文遺跡と古墳、両方見られてお得です」
「そうですねえ。ところでそのリュック、大きいですねえ」
「ああ、これですか、大は小を兼ねるじゃないが、デザインと生地が気に入りましてねえ。大きさを無視して買いましたよ。サイズ違いはありませんでした」
「重いでしょ」
「何も入っていません。筆記道具程度。スカスカです」
「でも生地が軽そうですから」
「ところがです、あなた。これは子泣き爺リュックなのです。急に重くなります」
「はあ」
「きっと中に子泣き爺が入り込むのでしょうねえ。赤ちゃん程度の大きさのお爺さんです。しかし、赤ちゃんは結構重いですよ。ずっと背負っていると。数キロありますからねえ」
「子泣き爺は有名な妖怪ですねえ」
「似たような妖怪で、背負い地蔵があります。急に背中や腰がきついと思うと、石地蔵を背負っているのですよ」
「はい」
「子泣き爺の場合、たまに足が出てくる。リュックが動かないように腹のところで止める紐があるでしょ。あんな感じで沢庵のような足が伸びてくるのです。袋の中じゃ窮屈で、宙ぶらりんなのでしんどいのでしょ。足を引っかけに来ます。当然手を肩や首に回し出します。そしてその状態で泣き出します。リュックから手足が出ている。亀のように」
「ほう」
「だから、大きい目のリュックで、あまり中に入れないで、スカスカにしていると、子泣き爺が入り込みます。だから、詰め物が必要です。合羽とかセーターとかでもよろしい」
「今日はどうですか」
「今はまだ軽いですが、中がスカスカなので、そのうち重くなりますよ」
「それは楽しみで」
「いえいえ」
 そういう冗談を言っている間に古墳が見えてきた。親切に幟を立ててくれている。
 その手前にバスが止まっている。話に夢中になっている間に追い抜いたのだろう。何人かがバスから降りてくる。まるで貸し切りバスのように。
「バスの方が早かったようですねなあ」子泣き爺リュックの老人が言う。
「いえ、面白い話が聞けて、楽しかったですよ」
「ほんの座興です」
 この人、妖怪に詳しいことから、妖怪博士と言われている。たまに、こういった見学会に混ざっているようだ。
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 10:30| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする