2016年10月04日

3040話 八界道


 八界道という道がある。村から出ており、距離は僅か。その道沿いに八界堂や、八界を表す石などがある。村はずれになると、その道は終わる。そこから先は村道で、そのまま進めば街道に出る。さらに進めば八方とは言わないが、三方に分岐する。八界とは八方のことだろう。八方拡がり、末広がりの。東西南北で四方、その中間の北西などを含めると八つになる。
 村内にある八界道は五十メートルもない。非常に短い道だが、丁度飛行場の滑走路に近い。八界道から飛び立つわけではないが、村を出て遠くへ行くとき、その方角用の石があり、それに道中安全を祈る。当然八界堂でもお願いする。八界堂は八角のお堂にはなっていない。そこまで凝らなかったのだろう。そうなると八界堂ではなく夢殿のような八角堂になってしまう。
 石には方角の文字や干支の絵が刻まれていたようだ。その方角の神様かもしれない。
 また旅立った人の無事を家族が願うときも、この八界道に来る。向かった土地と同じ方角の石に、旅の安全を願う。さらに心配な人や、戻って来ない人がいるとき、八界堂に籠もり、その方角に向かい祈祷したりする。このとき、念仏でもなければ祝詞でもない。何か訳の分からない言葉というか音を発している。本人も意味が分からないのだろう。民謡のかけ声にも聞こえる。
 この八界道、土地の人がよく守っており、江戸時代には常夜灯が並んでいた。
 わずか五十メートルほどの道だが、ここを通ると、旅に出た気になる。この八界は地続きの八界で、八つの世界があるわけではない。ただの方角だ。では北北東の場合はどうするのかという話だが、それは略される。おおよその方角でいい。できたときは日本地図などなかったので、北だが、やや西の斜めの方角程度でよいのだろう。
 村人はあまり移動はしていないように見えて、結構他国へ出ている。また、この村は田圃が忙しい時期が終わると出稼ぎや行商に行く人が結構いた。
 子供達も小さい頃から、他国の話などをよく聞いていたので、色々な土地の話を知っている。ただ、旅立つ人の行き先はほぼ決まっており、それほど遠い場所ではない。
 六道の辻というのはよく聞くが、八界道や八界堂は珍しい。
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 10:51| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする