2016年10月24日

3060話 小人物


 大きなことより小さなこと、些細なことばかりに気を取られ、大きなことができない人もいる。大物は大きなことをする。しかし最初から大物ではない。小物だ。そのためいきなり大きなことはできない。小さなことから始めることになるのだが、スケールの問題ではなく、それが何処に繋がっていくのかを考えると、小さなことでも、なかなか実行できなかったりする。大きなこともできないが小さなこともできない。小さなことでも実際には大きなことと変わらないからだ。見た目は小さくても、それが徐々に大きくなっていくと、手に負えなくなったりする。それが予測されるため、小さなことでも慎重だ。だから大きなことができない人は小さなこともできないわけではないが、小さいままなら何とかなるだろう。最初から小さく、どこまでいっても小さいなら、安心してできる。
「それで大きなこともできなし、小さなこともできないわけですか」
「ヒヨコもそのままだと可愛いですが、すぐにニワトリになり、そのときは可愛くありません」
「そんなことは最初から分かっているでしょ」
「ヒヨコが好きなのであって、ニワトリが好きなわけではありません。それを考えると、ヒヨコが欲しくても先のことを考えると、飼えません」
「ニワトリも可愛いですよ」
「いや、あれは小さく黄色いからいいのです」
「万事がそうですか」
「はい」
「では成長したものや、成熟したものは嫌いだと」
「そうなります」
「それは悪い趣味というか、性癖かもしれませんよ」
「え」
「幼いものが好きとか」
「それは喩えです。将来の夢を言っているのです。将来何になろうかと」
「仕事ですか」
「そうです」
「それで、小さな仕事が好きだと」
「そうです。ずっと小さいままの仕事がいいのです」
「いくらでもありますよ。そんな職種は」
「仕事内容は小さいままでも、ベテランになると、また違ってくるでしょう」
「古参兵のようなものでしょ」
「その状態が嫌なのです」
「じゃ、個人で、コツコツと小さな仕事に励むことですねえ」「そうです。成長したくないのです」
「そのタイプ、結構普遍性があって、結構いますよ」
「そうなんですか」
「まあ、大人になっても未成熟なままなので、周囲に迷惑を掛けたりしますよ」
「それは困ります」
「だから小さな仕事とか、大きな仕事など考えないで、やればいいのですよ」
「しかし、小さな仕事でも、それが大きな仕事になっていきます」
「心配しなくてもいいです」
「どうしてですか」
「それほど伸びないで、小さなままの人が殆どですから」
「はあ」
「大物になるのはほんの僅か。だから安心ですよ」
「だったら安心して小人物になれるのですね」
「そうです」
「安心しました」
「参考になりましたか」
「なりました」
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:17| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする