2016年11月11日

3077話 電車でワープ


 柴田の散歩は徒歩だが、近場ではない。メインの散歩は電車。散歩そのものがメインとは言いにくい。メインの用事とは言えないためだろう。しかし、散歩にも色々あり、規模がある。スケールがある。そして得意の散歩がある。これがメインの散歩。
 柴田はワープタイプで、いきなり遠くの町に降り立つ。そこからが散歩で、そこまでは何もない。駅前までの道や車内や乗り換えなどは散歩の中には入らない。通勤風景のようなもので、それに近い。そこは無視というより、散歩者の視線にはならない。殆ど車内では寝ている。本当はいきなりワープしたいのだ。だから居眠りをしていて、目を覚ますと目的駅なのが一番いいが、そんなに運良く目は覚めない。寝ている間に目的駅を通過する恐れもあるので、うとうとも浅め。結構アナウンスは耳に入ってくる程度の居眠り。本当に眠っていなくても、目を閉じているだけで十分。目を開ければ違う世界がいきなり開ける。
 遠い場所まで行くため、車窓風景は参考になる。地理的、地形的にどのようなところを通過し、そこへ至るのかが位置的にも分かりやすいのだが、そういうことはしない。線ではなく、点で見るタイプなのだ。
 目的駅には拘らない。適当。つまり、降りたことのない駅なら、まあ、何処でもいい。しかし優先順位があるようで、地名に釣られたり、駅名に釣られることが多い。しかし、前回行った町や、その方角へは行かない。今まで行った場所を繫ぐということはしない。その近くの駅へ行くことはあってもかなり経ってから。
 何処へ行くかは駅で切符を買うときに決めたり、適当なところで降りたりもしない。しっかりと出る前に決めている。一度決めると、それは変更しない。また、決めてからでないと出掛けられない。目的はその駅に降り立つこと。それを果たせば成功だ。たとえ滞在時間が五分でも。そんなに運良く帰りの電車があることは希だし、少しは歩く。一応ここからが柴田の散歩で、スタート位置。五分ではもったいないし、散歩に出た気分にもなれない。
 駅前からが散歩で、これは散策に近い。何処へ行くのかは考えていないし、調べてもいない。一番緩やかな散歩で、気が向くまま適当な道を行く。そのときは散歩者の目になるため、観察眼も鋭くなる。そして良さそうところが目に入ると、そこへ向かう。下調べをしておれば、その反対側に良い名所があることが分かるので、当然効率よく回れる。しかし、それはしない。見知らぬところを歩きたいだけで、見学は二の次。しかし、駅に降りたとき、それなりの案内板があり、それで分かるのだが、それは見ない。ただ看板が目に入ったり、矢印が出ていたりのリードがあると、それに釣られ、そこへ行くこともある。
 たとえば大きな神社などがある場合、そこへ向かう人が多いし、参道が見えていたりすると、それに引っ張られる。
 それでは観光になり、メインのワープ散歩とはジャンルが違ってくる。それでもかまわないのだが、いきなり降り立った場所を彷徨うのがいいようだ。だから名所が目に入っても寄らないことも多い。
 そして目に付いた本屋には必ず入る。さらに言えば古書店ならさらにいい。そして、ウロウロしたあと、駅前辺りにある喫茶店で一服。このとき、定食があれば食べる。ランチをやっている店に限るが、なければサンドイッチでもいい。食堂ではなく、喫茶店に入るのは、少しゆっくりとしたいため。買った本などがある場合、ここで少しだけ読む。帰りの車内では読まない。相変わらず居眠りを始める。いきなり自分の町の駅に着くのが理想的だが、そうはいかない。
 目覚めるとそこは見知らぬ町だった。もう一度目覚めると近くの駅だった……がいいのだろう。
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 10:44| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする