2016年11月23日

3089話 そこに気付かない


 大事なものは仕舞い込むと、余計に分からなくなるものだ。何処に仕舞ったのかを忘れても、心当たりのある場所が一応あるので、順番に調べたりする。引き出しなどは簡単に見ることができるが、何処かに挟んだり、別の容器に入れてしまうと、すぐには見付からない。
 大石はハガキほどの大きさの書きものをなくした。仕舞い込んだのかもしれないが、そのまま手元の引き出しに入れたか、またはその近くに置いた記憶がある。目に付きやすい場所に置いたのはすぐに使うため。
 それから一ヶ月後、その書きものが必要になった。番号が書かれている。暗号ではないが、記憶できない。その番号が必要なのだ。コード番号だろう。
 すぐ手元に置いたので、すぐに見付かるはずだが、その上に何かが乗ったのか、すぐには見付からない。当然、最初は手元の引き出しの中を探した。そこは一時置き場ではないものの、一応大事なものの仮置き場にしている。だからそこに入れた確率が一番高い。
 引き出しでなければ、その周辺だが、ハガキほどの大きさなので、ゴミを捨てるとき、一緒に掴んだ可能性もある。
 まずは引き出しを抜き出し、ただの箱にしてじっくりの中を探した。もういらないような書類やカードや、ゴチャゴチャしたものが一杯入っている。当然新しいものほど上に来るが、一ヶ月の間に何度か底の方にあるものを取り出すとき、上のものが入れ替わった。しかし、探せば出てくるはず。
 結局そこではないのか、三回も見直したが、姿を現さない。
 そこで、大事なものを入れる整理棚などを順番に見て回った。もう使わなくなった書類とか、何かを買ったときの保証書とか、取扱説明書などが、入れた順番に入っていたりする。
 思い当たるところは全部探したが、入れた覚え覚えがないので、入れたことを忘れたことに賭けたが、その賭けも外れた。
「それでどうなりましたか」
「いつもの一時置き場の引き出しでした」
「じゃ、その中に」
「いえ、そこは何度も見ました。そこではなく」
「その引き出しの中じゃないのですか」
「引き出しの外です」
「ああ、引き出しが溢れて、向こう側へ落ちたとか」
「それも考えましたので、そこも一応見ました」
「じゃ、何処から出てきたのですか」
「引き出しの本体からです。引き出したあとのガワのような」
「引き出しを全部抜いた状態の、本体ですね」
「そうです」
「じゃ、上の引き出しにくっついていたとか」
「上には引き出しはありませんが、棚があります。従って引き出しの上の板です。流石にそこは見ていません。その引き出しは文机とセットになったものでして、補助用の机の役目も果たします。そこに付いている一箱だけの引き出しです」
「じゃ、何処から出てきたのですか」
「引き出しを抜いた、下でした」
「ほう」
「どうしてそこにあったのか分かりませんが、おそらく引き出しを開けないで、差し込んだのでしょう。それが引き出しの入り口ではなく、間違って、底に差し込んだのです。おそらく引き出しが一杯で、全部開かないので、薄いハガキ程度の紙なので、開けなくても差し込めると思ったのでしょうね。それで別の隙間に入れたわけです」
「しかし、引き出しを抜いたとき、見えるでしょう」
「見えていたでしょうねえ。しかし、抜いてすぐに引き出しの中ばかり見ていましたから、そんな引き出しの底にあるとは思わなかったのです」
「底に気付かなかったわけですね」
「そうです。まあ、出てきたので、よかったです」
「はい」
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 10:13| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする