2016年11月27日

3093話 相手を読む


 人は何を考えているのか分からない。しかし、おおよそ想像は付く。この人なら、おそらくこうだろうと。相手のことをよく知っていると、さらに分かりやすい。だが、いつもの反応とは違うことがある。結局よく分からないというのが結論になったりするのだが、想像外の反応というのは、別の因子が入っていたのか、データのない未知なる分野のためかもしれない。いつもの反応というのは、性格から推し量ることが多い。気質だ。しかし、それ一本だけでは無理な場合がある。場合場合により毎回違うとなると、もう推測などできないが。
 あまりにもいつもと違う場合、性格が変わったなどと言う。しかし、変わったのではなく、そういう性格を今まで見せなかっただけかもしれない。
 しかし、人を動かしているのは性格だけではなく、そういうものとはまったく関係のない因子が働いていることもある。これは相手の内部からではなく、外部の影響で、まるで人変わりしたような、というのもそうかもしれない。当然何か病的なものが原因かもしれないが。
「それで読めなくなったのですね」 
「大事なお客さんなので、粗相があってはと思い、これまで上手く合わせてきたつもりなのですが、まるで豹変です。姿形が変貌したわけではありませんが、どうも扱いにくくなりました」
「何か憑いていると」
「それ以外に考えにくいので、こちらへお伺いしたわけです」
「しかし、私は霊札を出す程度で、何もできませんが」
「それで結構です。こういうものは悪いものが憑いたということにした方がよろしいので」
「そんなに重大な客なのですか」
「得意先です。これを失うと、大変なことになります」
「失いそうなのですか」
「そんなことはありませんが、このままでは信用を失い、見捨てられるのではないかと思いまして」
「何かありましたか」
「まだありませんが、客の心が読めなくなったため、先が不安で」
「まだ、何も起こっていないのですね」
「そうです」
「そんな心配をなされるのは早すぎるかもしれません」
「はい、しかし転ばぬ先の杖で」
「分かりました。そのタイプの霊札を差し上げましょう」
「有り難うございます」
 その霊札は憑き物を落とす護符だが、得意先に対してではなく、相談に来たこの人に対してものだった。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:39| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする