2016年12月24日

3120話 田治見家の惨劇


 田治見の町は忌まわしい事件が起こった場所で、田治見家の遺産相続事件なのだが、その相続人達が次々と殺されていった。連続殺人事件だが、これは小説の中の話。あまり有名な小説ではないので、テレビドラマ化も映画化もされていない。昔の探偵小説家が書いたもので、トリックの破綻があり、評価されないまま終わっている。当然、その探偵小説家は無名のまま。単行本にもなっておらず、三流探偵雑誌に連載されていただけ。
 高橋はその雑誌を集めており、それで田治見家の惨劇を読んだ。当時の有名作家のコピーのような内容で、それのし損ない。連載ものなので、上手くまとめられなかったのだろう。たとえ破綻のないトリックに仕上げていても、何といういうこともない内容なので、美味しい作品ではない。ただ、この新人作家、ここで躓いたのか、そこで終わっている。
 高橋はその田治見町へやって来た。長編連載猟奇探偵小説「田治見家の惨劇」のためではなく、偶然降り立った盆地内にある地方の町。昔からある大きな街道が走っており、交通の便は良い。
 盆地は擂り鉢状だが、突き出た丘陵があり、そこに城があったようだが、今は石垣だけ。これも聞いたことのない領主や城主のもので、今一つパッとしない。田治見家はその城下にある大きな商家。領主に金を貸すほどの大きな家で、小説に出て来る昭和初期には製薬会社になっている。その創業者が亡くなる前に起きた事件なのだが、当然それはフィクション。それが分かった上で高橋は田治見の町を探索した。
 それらしい旧家が残っているので、田治見の本家も、こんな家ではないかと想像しながら、庭の松に逆さ吊りされた長女の遺体を思い出す。これは挿絵になっていたので、一番印象に残った。
 そのため、古い家の庭に松の木があると、気になって仕方がない。また、大屋根に上げられて、そこで大の字になってなくなっていた人もいる。どうして屋根に上げたのかが謎のままで、かなり無理があった。百キロを超える次男だ。
 そのため、屋根を見るたびに、その上げ方を考えたりする。ロープで引き上げるにしても、重すぎるし、足場も悪い。それに一人では無理。ところが犯人は創業者の母親で、老婆だ。そして共犯者はいないことになっている。
 創業者の母親には隠し子がおり、その子に継がすため、相続人の兄弟姉妹を次々に殺していったのだが、動機が弱い。その老婆がどんな気持ちで思い立ったのか、その心理が分かりにくい。
 それにこのとき、まだ創業者は生きている。亡くなるのはそれから数ヶ月後。遺言を残せるほど頭もしっかりしていた。
 田治見本家を囲む堀の中に三男が土左衛門状態で浮いていた。確かにこの町には掘りのある家もある。早朝、ウロウロしていた浮浪者が発見し、通報している。惨劇の朝は霧が出ていた。と、ナレーションのようなのが書かれている。都合七連続殺人事件で、田治見の町でそれらが起こっている。だから、見所豊富。
 高橋はフィクションだとは分かっていても、それを重ね合わせながら田治見の町を歩いていると、それなりに楽しめた。これは聖地巡りのようなもの。
 そして最後に、昔からある村の墓場へ寄ると、そこにこの作家の墓が残っている。普通なら何々家の墓として、そこに入るのだが、しっかりとフルネーム。しかしよく見ると、名前の下の上等兵となっていた。
 
   了

 
posted by 川崎ゆきお at 09:58| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする