2016年12月27日

3123話 鷺宮


 鷺宮から先は、未知の領域。しかし、そこは市街地で人跡未踏の地ではない。ただ都島にとり、立ち入ったことのない場所。会社が鷺宮南にあり、地下鉄も鷺宮南にあるが、鷺宮ではない。南が付いているか、いないかの違いだが、鷺宮の町の南にあるのが、鷺宮南。どちらかというと、鷺宮口といった方がよい。駅がある場所が町の入り口なのは、延長に次ぐ延長で延びた路線で、結構町外れを貫通しているのだ。この地方ではJRは比較的古い町に駅があり、私鉄は新しくできた町が多い。
 都島が働いている会社は、この鷺宮南にあり、そこから北側へは行ったことがない。徐々に郊外になり、山を越えると他府県に出てしまう。この地下鉄は市営なので、そこまでは繋がっていない。わざわざ地下を掘ってまで通す必要はない。ただ、鷺宮は既に市外にあり、別の市に属しているが、いずれも衛星都市のようなものなので、街並みも似ているし、住んでいる人も、市内と市外とでは変わらなかったりする。
 さて、鷺宮だが都島がそこに踏み込んだのは珍しく定時で帰れた日で、いつものように鷺宮南の駅の階段に差し掛かったとき。地下鉄は大きな道の真下を通っている。そのため、その道ではなく、角を曲がったところから続く北へ向かう道が鷺宮に繋がっている。鷺宮南も鷺宮なのだが、鷺宮の外れだ。
 いつも通っている鷺宮なのだが、この町の本当の姿は知らない。遠くに見えているのだが、鷺宮南駅前の風景とあまり変わらない。少しビルの数が減り、高い建物も減っている程度。逆に遠くに煙突が見えたりする。
 鷺宮なので、鷺が多く飛来していた場所かもしれない。しかし、そんな昔の風景ではなく、今の鷺宮を見たい。
 なぜ、そんな気になったのかというと、詐欺事件が起こり、都島の事業所もそれに欺されたのだ。幸い被害は出なかったが、その詐欺が気になる。
 鷺宮にいながら、本当の鷺宮の町を知らないというのも、理由の一つだが、詐欺が鷺を呼んだようなもの。
 そして、鷺宮の中心部に足を進めたのだが、特に何ということはない。瓦葺きの民家が増え始め、スーパーとか市場とか、商店街が沿道に入り出した。下町なのだ。鷺宮には駅はなく、以前の最寄り駅はJRの駅なので、結構遠い。だから一番近いのが、鷺宮南ということになる。
 中心部をあっという間に通過し、もう別の町になっている。北上するほど山が近く見える。この道は昔の街道だったのではないかと思えるが、そうではなく、それに並行するように走っている新道だろう。結構大きな幹線道路だが、車は少ない。
 やがて、田んぼや溜池が視界に入り込み、ぱらぱらと新しそうな家が見え出す。ベッドタウン化が遅れているのは、近くに鉄道がないためだろう。
 道から溜池が見えるので、覗いてみると、白い鳥がいる。結構大きい。鶴だ。
 しかし、ここは鷺宮、きっと白鷺だろう。鶴よりも小さい。しかし、見た感じ、鶴に似ている。
 ああ、鷺の名は、あの詐欺から来たのか、と都島は独り合点した。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 11:16| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする