2016年12月30日

3126話 花巻へ向かえ


 友田が引っ越した町は郊外にあり、まだ田畑が残っている。ベッドタウンとしてはもの凄く奥にある。そのため、家賃が安いのだろう。都会に出ることが希なのは、家で仕事をしているため、ネット上だけでできる仕事で、これは昔なら電話と郵便だけでもできることなので、辺鄙な場所でも問題はない。
 それで、引っ越してから近辺を探索していると、村がまだ残っているので、驚く。その一帯の平野部は村で区切られているのがよく分かる。
 夏場からその探索を始めたのだが、寒くなってからは行かなくなった。すると、村が消えた。
 村巡りをしているときには村はあった。今もあるだろうが、視界から消えた。実際には友田のアパートも一つの村の中にあるのだが、住宅地のため、村らしい趣はない。
 秋祭りの頃、神輿が練り歩いているのを最後に、村を感じることはなかった。正月も近いので、その頃には村の神社へ初詣に行く人もいるだろうが、その神社は離れた場所にあるので、これも見る機会もないが、それ以前に年末年始は実家に帰っている。
 村が消えたというのは、単に友田が村回りの散策に出掛けなくなったため、村のことなどすっかり忘れていた。
 そこへアパートの家主がやってきた。この人は土地の人だ。
「一揆じゃ」
 宴会で一気飲みでもするのかと勘違いするほど、時代が錯誤する言葉だ。
「百姓一揆?」
「いや、土一揆だ。玉出の衆も集まっている。みんな花巻に集合するらしい。わしら大峰の衆も向かっておる。あんたも用意しなさい」
 玉出は隣村。花巻はこの一帯で一番大きな村。
 家主は鎌を手にしている。
 友田は適当な武器がないので、伸ばすと長くなる突っ張り棒を竹槍代わりに持ち出す。伸ばすと二メートルほどある。
 外に出るとアパートの住人が既に中庭に出ている。むしろ旗を作っている人もいる。この近くの町にある銀行員だ。
 そして通りに出ると、人の動きが慌ただしい。花巻へ向かっているのだ。
「おらー花巻から来ただ」と、叫ぶ青年がいる。伝令のようだ。
「作戦変更で、土蔵を落とす前に城代家老邸を襲うことになった」
 友田は訳の分からないまま、その人津波のような中を泳いだ。城代家老の屋敷など、何処にあるのかと思いながら。
 当然、これは夢の中の話で、長く村探索をしていなかったので、それが原因だろう。
 普段、意識からは消えていても、たまに夢の中で湧き出てくるのかもしれない。
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 10:11| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする