2017年01月13日

3140話 白サギが来る排水溝


「どこまで話しましたかな」
「雨の日に散歩をした話です。冬の雨で、冷えてきたので戻ろうとしたとき、までです」
「そうでしたな、続きがあります。聞きますか」
「はい」
「それは付き合いの良いことで、別に聞かなくてもいいような話ですよ」
「どうぞ」
「じゃ、甘えさせていただいて、続きを話しましょう。戻ろうとしたとき、川を見たのです。用水路でしょうなあ。昔の農水路なのですが、今はただの排水溝のようになっています。そこに鳥がいました」
「鳥」
「水の中です。川幅は結構あるのですが、まあ、車一台分程度でしょうか。いや、一台半程度。トラックならはみ出す程度。その中ほどにもう一つ窪みがありまして、普段はそこをちょろちょろと水が流れています。その日は雨が降っていましたが、水かさはそれほど増えていません。その溝のようなところが溢れることは先ずなく、大雨が降ったあとなら、土手の方に来ますが、今風な排水溝ですから人の背より高い。だからここも溢れ、道まで水が行くことは先ずありません」
「鳥はどうなりました」
「その一番下の水が本当に流れている狭いドブのようなところにいました。白鷺でしょうか。しかし小さい。まだ子供ですかな」
「その鳥がどうかしましたか」
「白鷺は近付いても逃げない鳥でしてね。これは鴨もそうです。雀や鴉はすぐに逃げますがね。鳩は別ですが。で、その白鷺、こんなところに餌があるのかと、心配しながら見ておりますと、嘴を水の中に入れ、つついています。魚などいるわけがない。全部コンクリートで、草さえ生えていませんからね。しかし、雨水と一緒に何か流れ込んできているのでしょうか。農水路だったので、源流は普通に魚のいる河ですが。しかし、魚など見かけたことはありません。または私どもには見えなくても、白鷺には見えるものがあるのでしょうか」
「何をつついていました?」
「だから、見えません。微生物ぐらいいるでしょうし、また小さな虫でもいるのでしょうかねえ」
「はい」
「そのあと、移動しました。ドブの中を歩きながら、またつついています。次は飛びました。横の道のガードレールに止まり、川を見ています。そして何かを見付けたのか、さっとそこまで飛びました。そして、また何かをつついています」
「何かいるのでしょうねえ」
「この排水溝には雀ぐらいの大きさで白っぽい鳥がよく来ています。その鳥は決まってペアです。そして同じように何もいないはずの川で、何やらつついています」
「はい」
「それで終わりです」
「あのう」
「はい」
「どういう意味になるのでしょうか」
「さあ、私どもにも分かりませんが、私らには見えなくても、何かあるんでしょうねえ。それだけです」
「本当にそれだけですねえ」
「はい、本当にそれだけの話です」
「はい」
「次の話は」
「ああ、また間を置いて聞きに来ます」
「はい」
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:16| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする