2017年01月18日

3144話 消えた北大路


「西大路と東大路の間に大路があったのですか?」
「そうです」
「北大路や南大路はありません、そしてただの大路という地名もありません」
「それがあったのです」
「西か東の文字が欠けていただけじゃないのですか」
「違います。大路会館があったり、バス停も大路でした」
「あなた、何処へ行って来られたのですか」
「北大路へ」
「だから、北大路はそこにはありません。先ほど言いましたね。南大路もありません。あるのは西大路と東大路だけ」
「別れる前の地名ではありませんか?」
「何が」
「ですから、西と東とに別れる前は、ただの大路」
「いや、そういう意味じゃなく、大きな道があったのですよ。だから大路。その道の東と西の違いです。少し長い通りです。それで分けたのでしょ。それに大路は通称です。元々の地名がありましたが、それはもっと広い範囲を指していました」
「はい」
「それよりもあなた、ありもしない北大路へ行かれたのですか」
「はい、北大路へ行きたいと思い、行きました」
「それは西大路か東大路の間違いでしょ」
「そうだったのかもしれません」
「だから、なかったでしょ。北大路なんて」
「そのかわり、大路がありました」
「それはただの道の名前です。しかも大きな道という程度で、道の名としてもしっかりしたものじゃない。これは昔の新道。町屋が並んでいた程度です。そして周囲の道幅に比べ、広いので、大通り。だから大路大路と読んでいた程度。しっかりとした名前じゃありません」
「じゃ、大路会館や、大路バス停は」
「何の会館です」
「さあ」
「新しく建ったものでしょ。バス停の大路はあったかもしれませんよ。西大路と東大路の間ぐらいに。しかし、そんな町はありません。それでどうでした」
「え、何がです」
「ですから、西大路か東大路へ行かれたのでしょ。そこを北大路と間違えて」
「はい、さっぱりです」
「さっぱり」
「様変わりしていまして、昔の面影など何も残っていませんでした」
「そうですなあ。あの通りは道こそ広いですが、中心部から少し離れていましたから、開発も早かった」
「はい」
「それで、どんな思い出がありました」
「学生時代です。友人がそこに住んでいて、原付バイクを貰いに行きました。やるというので。しかしバッテリーが切れてまして、それを押しながら、その大通り沿いにあるバイク屋へ持っていきました。そこから乗って帰ろうと。しかし、故障箇所が多くて、マフラーなんて錆びて穴が空いていました。だから、修理は無理だと言われましたよ。あまり親しい友人じゃなかったし、目上だしで、文句を言うわけにもいきません。それで、捨てて帰りました」
「はい」
「その大通り、そんなバイク屋などもうありませんし、休憩で入った木造二階建ての喫茶店もありません」
「じゃ、そこまでどうやって行かれたのですか」
「電車で来て、駅前からバスで」
「あ、そう」
「友人の家は北大路にありました」
「それはきっと西大路か東大路の間違いでしょ」
「そうでしたね」
「そうです」
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:36| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする