2017年01月21日

3147話 護符売り


 黒峰の護符売りが、とある町に来ていた。全国を回っているらしいが一人。そのため津々浦々まで回りきれるものではない。護符売りが護符売りに来て売り残し、護符護符言いながら帰る護符売りの声に近いものがある。それほど売れるものではないが、悪くても旅費程度は出る。
 黒峰の護符、あるいは黒峰山、黒峰寺の護符と言っているが、そんな山も寺もない。護符とは守り札のようなもので、護符には読めないような呪文と誰だか分からないような仏様が書かれている。寺も仏も架空のもの。そのため、この護符売りしか、この護符は売っていない。
 越中富山の薬売りなら、年に一度は来るだろうが、この護符売りからもう一度護符を手に入れるのは難しい。何処にいるのか分からないため。
 一人で売り歩いているため、一度も足を入れたことのない町や村も多い。この護符には有効期限のようなものはない。
 黒峰の護符には二種類あり、大きいのは部屋の柱に貼るタイプで、小さいのはお守り袋などに入れるタイプ。家置きと、携帯タイプの違い程度。
 この黒峰、何処にあるのかと問われると、四国だと答えている。四国の何処かと聞かれると、四国の何処かだと答えている。お遍路さんで有名で、霊場も多いことから、悪いイメージではない。
 架空の寺が出している護符だが、霊験あらたからしい。レアなためだろう。
 その護符売り、既に三代目で、お爺さんが始めた護符売りを孫も引き継いでいる。お爺さんは旅の人だったが、孫の代になると、寒村に家を構えた。一応家がある。
 ある時期、三代揃って護符売りをやっていた。
 あることを、そればかり専門にやっていると、それなりの風格が付き、ただの護符売りだが、非常に霊験のある人に見えるとか。
 そして、その子孫、今はその寒村に住む普通の農家。護符売りで大儲けしたわけではなく、もうそんなものを売り歩ける世の中ではないので、護符売りは辞めている。
 しかし、売り残した護符が何枚か残っている。
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 11:01| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする