2017年01月25日

3151話 芸人通りの怪


 鈴木通りを右に入ったところに、ややこしい一帯がある。鈴木通りは下町にある芝居小屋からきている。もうそんな演芸場はない。
 ややこしい一帯とは、芸人などが住んでいたためだろうか。安っぽいアパートや下宿屋、それにビジネス旅館もあった。その通りは普通の住宅地なので、店屋などはない。そのため、そこに入り込むような人は滅多にいない。本通りである鈴木通りも寂れてしまったので、なおさらのこと。
 演芸場があった頃から住んでいる人もいる。まだそんなアパートが取り壊されないで、残っているためだが、外装は変わっている。壁などが剥がれたりしたため、新建材で補給し、木造丸出しの汚らしい家が建ち並んでいる風景とは少し違う。その反面趣きもなくなっている。変わったのは表面だけ、皮一枚だけで、中身は同じ。
 特に名は付いていないが、芸人通り。そういうアパートがまだ複数残っているため、若い人が引っ越してくる。芸人ではなく、演劇を志す人だ。お笑い芸人の卵はここには来ないようだ。
 鈴木演芸場は大衆演劇の小屋で、その後、映画館になり、やがてピンク映画と実演の小屋になる。実演とはストリップショーのことだ。これが最後で、この建物は放置されて長い。取り壊す費用さえないのだろう。
 例の芸人通りだが、そこに長く住む大村という老人が結構怪しいものを見ている。演芸場は封鎖され、中には入れないが、そこへ通う人をたまに見かけるらしい。
 夜中や早朝に、その姿を見かけ、鈴木劇場の芸人だと言われている。
 もうろくした爺さんが見た程度なら、その解釈は簡単だが、若い俳優の卵なども見ている。
 ある日、そのことについて、若い俳優が大村に聞いてみた。先輩に当たるが、立つ舞台が違うので、滅多に話などしないが、芸人の幽霊に関しては例外。
「知ってる顔もたまに通りますなあ。あれは私がまだ若手の頃の先輩です。この人は分かりやすい幽霊でして、髷を結ってます」
 若者も、その髷を結った人を見たので、大きく頷いた。
「国定忠治か、番場の忠太郎でしょ。しかし、あの人の十八番は一本刀土俵入の駒形茂平です。これは比較的新しいですがね」
 これは芸人というより役者だろう。さらに着物を着て三味線を持って通る女芸人もいる。これは芝居の前座のようなもので、歌と踊りとお芝居の興業とは少し違う。
 しかし股旅姿の人もお爺さんだし、三味線の二人もお婆さんだ。この芸人通りの何処かから湧き出すようだが、実体は分からない。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:28| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする