2017年01月26日

3152話 闇からの誘い


 冬の夕暮れ時、これは淋しいというよりも、寒い。秋の夕暮れはそれなりにまだ余裕がある。少し肌寒いと感じる晩秋は心細く感じるが、真冬だとそんな感傷ではなく、モロに寒い。早く暖かい場所に入りたいが、村田は郊外まで出てしまい、すぐには戻れない。暖かい格好をしてきたのだが、それでは足りないようだ。幸い風がないだけまし。そのかわり風邪が入ったのか、鼻水や咳が出る。熱はないので風邪ではないのかもしれないが。
 村田は何を思ったのか自転車で、そんな中途半端な時間に外に出た。目的地はない。散歩のようなものだが、とりあえず外に出たかったのだろう。
 しかし、季節が秋なら物思いに耽りながら自転車を転がすのだが、寒いのでそれどころではない。
 さて、村田は何を思ったのだろう。何も思っていなかったのかもしれないし、思っていたかもしれないが、しっかりとした思いではなく、ごく自然に外に出ていた。急に西側に拡がる郊外へ行きたかったのだ。それにしては時間が遅い。それに真冬。ウロウロを楽しむような季節ではない。
 赤かった夕日も彩度を落とし、逆に黒い雲が太陽に重なってきた。夕焼け小焼けの赤さではない。
 どれぐらい走ったのか、疲れてきた。そこはもう田畑が拡がる郊外で、大きな幹線道路沿いだけが賑わっている。適当な店に入って、暖まりたいが、本屋もなく、喫茶店もない。
 ファミレスやカレーの専門店や、ホームセンターがある程度。
 この中で選ぶとすればホームセンターだろう。見学だけで済む。
 しかし、別に買うものもないので、立ち寄る気にならない。それより、寒空の中を走っている方が気楽だったりする。余計なものを見たくない。
 そのきっかけとなった「思うところ」は忘れたというより、具体的に何も思っていなかったようだ。
「それを闇のパトスというのですよ」
 何処からか声がするが、これは自分で言っているのだろう。独り言で、声には出していないので、聞こえてきたわけではない。
 これは闇からの声だ。何等かの闇からの誘いがあったに違いない。そうでないと、わけもなく冬の夕暮れにウロウロしないだろう。
 夕食時になっているためか、腹が空いてきたので、牛丼屋に入る。やはり寒いし心細いため幹線道路の歩道を走っていた。しばらく進むと、見付かった。これはある場所は最初から分かっていた。それほど遠い場所ではなく、たまにこの辺りまで来ている。
 牛丼屋に入るとき、西日が最後の光を放ち、そのあと、シュンと消えた。
 そして村田は牛丼を食べ終えたとき、闇の世界から抜け出したのか、気持ちは並。
 店を出ると、闇。これはもう西の空も暗くなっていたため。
 結局牛丼を食べに遠くまで来ただけの話になった。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:34| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする