2017年09月30日

3398話 雨の降る前


「雨が降りそうですなあ」
「午後からだと言ってませんでしたか」
「もうすぐお昼です」
「降り出すのが早いようですが」
「私もそう思います」
「そうでしょ。だから傘なんて持ってきませんでした」
「私もです」
「しかし、まだ持つんじゃないですか、昼過ぎからじゃなく、午後からと言ってましたから」
「同じだと思いますよ」
「午後から雨なので、夕方あたりでもよろしいかと」
「そうですねえ。昼過ぎから雨なら、昼を過ぎたあたりから雨」
「午後というと広い」
「はい」
「しかし、困りましたねえ。戻り道濡れますよ」
「まだ降っていませんから、もう少し持つのでは」
「持って欲しいですなあ。秋の雨は冷たい」
「じゃ、もう帰りますか」
「いや、持つかもしれません。午後から雨なので、その午後の幅に頼るしかありません。降りそうで降らないことがよくあるでしょ」
「あります」
「しかし、雲行きがあやしくなってきていますねえ。さっきまで陽射しが少しあったのに、今は陽が見えない」
「そろそろ降らす準備をしているのでしょ。分かりやすくていいじゃありませんか」
「いきなりの俄雨よりも分かりやすいです。雨のことなど考えていないのに、降り出す。だから雨の心配など降るまでしていない。こちらの方が気楽でいい」
「今日の雨は予報でありました」
「はい、それで出るとき、頭にありました。降るだろうと。しかし午後からでしょ。だから、まだ大丈夫かと」
「そろそろ午後ですよ」
「昼を回りましたか」
「はい、今降り出してもおかしくありません」
「じゃ、帰りましょう。早い目に帰れば、まだ大丈夫かもしれませんから」
「そうですね」
「しかし」
「何ですか」
「降れば傘を買えばいいんですよ」
「ああ、そうですなあ。今使っているビニール傘、バネが悪くてねえ。いやバネではなく、曲がっているのですよ、芯が。だからすっと伸びないので、すっと開かない。だから新しいのを買ってもいい頃なので、急いで帰ることはない。あなたはどうですか」
「私は常に傘は二本使っています。二本同時に差すのじゃないですよ」
「そんなこと分かっています。そんな人、見たことありません。二本杖ならよく見ますが。それに平行には差せないでしょ。そして本人は間になるので、二本も傘を差しているのに、濡れることになります。縁と縁の間は隙間だらけですからね。四角な傘ならいいのでしょうが、繋ぎ目から漏れます」
「二本使っているとは、いつも二本用意しているということです。ところが一本、この前の台風で骨が折れましてねえ。一本だけになってしまいました。だから補充しないといけない。だから新しい傘を買う時期に差し掛かっています」
「じゃ、丁度いい。降り出せば買えばいいんだ」
「そうです」
「だったら、急いで帰ることはない」
「はい、その通り」
 
   了
posted by 川崎ゆきお at 10:43| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする