2017年10月04日

3402話 日陰者


「今日は晴れてますなあ」
「おや」
「違いますか」
「そうではなく、いつも雨の話ばかりなので」
「ああ、そうでしたなあ。今日は雨ですなあ、が多いですが、たまには晴れてますなあ、も入れなければね。しかし晴れているときは特に言う必要はないのですよ」
「そうですか」
「晴れると気も晴れる」
「確かに雨の日に比べれば、そうですねえ」
「しかし、晴ればかりが続くと晴れっぱなしで、ここいらで湿ったものも欲しくなります」
「そうですなあ」
「雨が続くと、カラッと晴れた日を望みます」
「そうですなあ」
「あなた、頷いてばかりですが」
「そうですなあ」
「どうかしましたか」
「いえいえ、聞いても聞かなくても同じようなものなので」
「退屈ですかな」
「いえいえ。いい感じです」
「まるでお経ですなあ」
「はいはい」
「晴れた日は何処かへ行きたくなりませんか」
「いえ、私は日向臭いのが苦手で」
「ほう、じゃ雨の日がいいと」
「日差しに弱いのです」
「吸血鬼ですか」
「違います」
「亀も陽射しがあるとき、甲羅干しするでしょ。あれと同じで、日差しもいいものですよ」
「暑苦しいのが苦手でして」
「暑がりですか」
「そうです」
「しかし、今日なんて晴れていてもそれほど暑くはありませんよ。夏はもうとっくに遠くへ行ってしまい、秋の空気です。少し肌寒いほどでしょ。こういう日でもだめですか」
「だめではないのですが、日向が苦しいのです」
「日差しですか」
「私は長く日陰者でしたので、日影に慣れています。そちらの方が落ち着くのです」
「でも日差しのあるところも通るでしょ。そのときも苦しいのですかな」
「苦痛ではないのですが、その明るさが嫌なだけです」
「変わった人だ」
「日影でしか育たない花もあるでしょ。あれに近いかもしれません」
「暗い人だ」
「暗いのではありません。居心地がいいだけで」
「あ、そう」
「はい」
「じゃ、日差しのない雨の日は元気なんだ」
「どんな条件でも元気じゃありません。元気を出すのが嫌なんです」
「じゃ、やはり暗い人なんだ」
「そうじゃなく、一寸した好みの問題です」
「色々な人がいるものですなあ」
「しかし、だからといって特に変わったところはありませんよ」
「何かの生まれ変わりでそうなった可能性もあります」
「生まれ変わりですか」
「いつも石の下などにいるような虫とか」
「ああ、そうかもしれません。だったら凄い出世でしょ。前世虫だったのが一気に人間なのですから」
「きっと善行を積んだ虫だったのですよ」
「しかし、その逆もあると怖いですねえ」
「まあ、前世なんて覚えていないはずですからね。そんな心配はいりませんよ」
「そうですねえ」
「ところであなた、次に生まれ変わるとしたらどんな人間がいいですかな」
「虫じゃなく、人間で?」
「そうです」
「今と同じでいいです」
「あ、そう。じゃ、満足しておられる」
「慣れたものがいいので」
「あ、そう」
「そうです」
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 10:27| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする