2017年10月10日

3407話 違えた世界


 普通の旅人ならそんなことはないのだが、いつの間にか街道筋から離れてしまった。それに気付いたのは人と出合わないため。何処で道を違えたのか分からない。雨が降り出したあたりからが怪しい。これは急がないと宿に着く頃には合羽程度では濡れ鼠なる。雨は小雨だが、いつ本降りになるやもしれぬ。それで慌てたのだろうか。
 秋の雨は冷たい。体も冷えてくる。道を違えたのはそのあたりからだと思う。枝道の一つに入り込んだのだ。
 道は徐々に細くなり、街道にあるような轍もない。草が増え始め、真ん中辺りだけは土が見えている。街道近くの枝道なので、人の行き来がそれなりにあるのだろう。
 本来、そんなことが起こらないはずのことが起こる。その起こりは雨かもしれないが、雨が降るのは珍しくない。雨は本来降るものなので、本来の内。では何が道を違えさせたのだろう。これは引き返せば解決する問題だが、結構違えてから長い。違えたところまで戻る距離と、そこから宿場までの距離を考えると、もう少し先へ進めば何かがあると思った。街道沿いの里なのだから、何かあるはず。所々に屋根が見えていたのだから、ここは山中ではない。
 そしてあるべきものが出てきた。何者かではなく、明かり。日が暮れかかっているので、その明かりは目に刺す。早い目に火を入れたのだろうか。小高いところにポツンとある民家。茶店かしれない。すると道を違えていないことになる。だが、道に生えている草、轍がないことから、これはやはり違う。
 この岡の上の明かりを灯した家が本来ないものの一つだろう。二つも三つもあると本来あるもののように見えるが。
 そして雨で濡れ、夕暮れどき歩いている旅人なら、そこに吸い込まれるだろう。
 雨宿り、もしくは一夜の宿を請う。これは本来よくあることだ。
 冷えてきた体は暖かいものを求める。それが本来の場所でなくても。
 明かりは灯明だった。そして聞こえてくるのは読経。ポツンとある粗末な農家なのだが、この里の寺かもしれない。というより、村の僧侶がいる場所程度。寺は焼けたのか最初からないのか、それは分からない。
 ここにも本来の姿はない。これを寺だと思えば思えるが、寺らしくない。
 宿坊なら、それなりに名のある大寺で、旅人もそれぐらいは知っているはず。この街道沿いにそんな大伽藍はない。
 本来なら旅人は気付くはず。しかし道を違えたことで、本来とは違う頭になっていたのだろうか。その建物に入っていった。
 しばらくすると読経がやみ、何やら話し声が聞こえだし、その後、ものすごい物音と悲鳴。
 違えると本来ないものと遭遇することもあるのだろう。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:23| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする