2017年10月14日

3412話 妖怪博士妖怪を見る


 古びた家で暮らしている妖怪博士は、ある日ふと壁を見たとき、そこにヤモリがいるのを見た。そのヤモリはよく見るヤモリで、散歩コースでもあるのか、その時間になると出るようだ。ほとんど動かないが、次に見たときは位置が変わっており、その次見たときはもう消えている。
 その日もふと見たのだが、これはいつも座っている場所から前を見れば本棚の横の壁が目に入るため、見るともなしに見てしまう。ただ本の背表紙を見ていることが多いが。
 その日のふとも、前回と同じで、やはりヤモリがいる。これは毎度のことなので、気にならないので驚きはしないが、生き物がそこにいることに変わりない。それに蚊や小さな虫に比べ、ヤモリはそこそこボリュームがある。それに蛇やトカゲに近いので、気持ちのいいものではない。
 そして、時間をおいて、ふとまた見ると、いる。
 その翌日もまだいる。余程そこが気に入ったのか、へばりついたまま。
 気になったので、再び見ると、今度は二匹に増えている。これは喧嘩でもするのかと思い、じっと見ていたのだが、微動だにしない。
 妖怪博士は遠くはよく見えるが、二メートルほど離れたものは苦手で、それ以上近いと老眼鏡で見る。要するにしっかりと見える距離ではない。もし見えていても、細部までは無理だろう。
 さて、それで済めばそれだけの話だが、この二匹、翌日もいる。これは居すぎだろう。
 この壁の手前は本が積まれていたり、色々とものが置かれているので、近付きにくい。そこで望遠レンズ付きのデジカメで覗いてみる。
 確かにヤモリだが、後で出てきたヤモリは蜘蛛の巣などが固まってできたものだった。すると、最初のヤモリが動かないのは、そこで張り付いたまま果てたのだろうか。
 薄暗い場所なので、望遠で覗いても、しっかり見えないので、今度は足場を確保しながら、その壁の前まで寄り、老眼鏡で見た。
 最初にいたヤモリも蜘蛛の巣や埃やゴミが固まってできたもので、綿埃などがボリューム感を生んでいただけ。ヤモリの頭と思っていたものはそうでなかった。
 幽霊だと思っていたらただの枯れ尾花。これだろう。化けるとは、化けたように見えることで、これは見る側の問題だったのだ。そのものは化かそうとして化けているわけではない。
 しかし、ヤモリが蜘蛛の巣やゴミなどが集まったものだと分かる手前に見たものは、ヤモリに似ているが、妙なヤモリで、こんなヤモリがいるのかと思うような代物だった。その妙なヤモリが妖怪のようなものだ。最初からそういうものとして存在しているわけではない。形が妙なのは本物ではないためだろう。
 何かが化けるよりも、化かされる方が多い。見る側の錯覚だ。原因は本人にある。妖怪博士はそれをヤモリだと思ったが、それはいつもそこにヤモリが出るためだ。
 これは妖怪の発生を知る手がかりになりそうだ。そうすると人により、妖怪に見えたり、見えなかったりする。
 妖怪化しているのは見る側の事情だろう。そして何かが化けたバケモノではなく、蜘蛛の巣の固まりは蜘蛛の巣以上のものではない。そんな形になったのは、外からの風も影響している。庭に面した場所にあるためだ。だからヤモリも外から遊びに来たりしていたのだろう。
 妖怪博士は最初ヤモリだと思い、疑わなかった。次に望遠のカメラで覗いたとき、妙な形をしたヤモリとして見た。この妙な形に見えた一瞬、ヤモリではないのかもしれないと気付き、近付いて見たのだ。だから妙な形としてとどまっているとき、それは妖怪の状態だったのかもしれない。ヤモリそっくりなら、確認しなかっただろう。
 ヤモリに化け損なったようなものだ。化けきっておれば、ヤモリのまま。
 見る側が妖怪を造り、そのものは化ける気など最初からない。偶然が作りだしたものだ。
 妖怪博士はその体験、大いに参考になったが、特に目新しい発見ではなかったのか、いい話には化けなかった。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:28| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする