2017年10月15日

3413話 赤神様がいる村


 ターミナル近くのファスト系喫茶店。密かな場所ではないが、その三階が喫煙室になっており、木島はそこである調査員と会った。できるだけ知っている人と顔を合わせない場所ということで。二人とも煙草は吸わないが、この三階は下の階より狭い。そして小さな窓があるだけで、下の通りからは見えない。密談にはもってこいの場所だが、何かの取引とか交渉事ではない。電話で木島村と言われたとき、木島はどんな話なのか、察しは付いた。
 調査員は一枚の古い写真を取り出した。木島はそれを見たとき、用件が分かった。
 その写真は荒れ地に無数の鳥居が立っている風景で、その数が多すぎる。お稲荷さんのように鳥居が重なるように立っているのはよく見かけるが、朱塗りではなく、適当な木材だ。中には崩れたり、取れたりしているものもある。荒れ地は谷のようで、一方の斜面が緩やかなためか、そちらに多い。しかし荒れ地全体に鳥居が乱立しており、参道とはまた違う。
「ご存じですね。木島村です」
「はい」
 調査員は何かの下調べで来ているようで、廃村となった木島村ゆかりの人々を訪ねているようだ。
 木島村にはまだ木島家の土地がある。建物はほぼ崩壊したが、まだその残骸が残っている。草で覆われ、もう自然に戻っているが。
 早い時期に廃村になったのだが、村人はいないものの、土地は残っている。
「赤神様についてご存じでしょうねえ」
「その件ですか」
「この鳥居群は赤神様のためのものでしょ。押さえのような」
「よく調べられましたねえ」
「村から出た人達から聞きました」
「よく喋ってくれましたねえ」
「もうボケておられたのでしょ。赤神様は禁句らしいのですが、スラスラと語ってくれましたよ」
「よした方がいいです」
「どうしてですか」
「廃村になった原因だからです。聞きませんでしたか」
「はい、赤神様とは何かまでは知らないようでした」
「私も同じですよ」
「他の方々もそうでしょう。だからこそ調査が必要かと思い……」
「やめた方がいいですよ。私達はそれで逃げてきたのです」
「一体何を祭っていたのですか。赤神様としか分からないのです。何か聞いていませんか」
「赤い神様です」
「もう少し詳しく」
「ですから、誰も本当のことは知らないのです」
「じゃ、なぜ、あんなに多くの鳥居が」
「あれが立ったのはもの凄く古いようです。赤神様の祟りで、何かあったのでしょうねえ。鳥居の原に石饅頭がゴロゴロしています。写真ではそこまで写ってないでしょ」
「それは参考になります」
「犠牲者でしょ」
「それで村が全滅状態に」
「それなら、私も産まれていないでしょ。外から来た人達のものです。昔は行き倒れや野垂れ死にの人をそうやって弔ったようです。しかし数が多すぎるでしょ。あんな僻地の村に、これだけの人が来ていたのですからね」
「赤神様とどういう関係が」
「だから、やめた方がいいと言っているのです」
「それを調べに」
「だから、昔も、そうやって赤神様を見に来た人達がいたのでしょ」
「つまりこうですね」
「こう?」
「ああ、こういうことですね。つまり、赤神様の正体を暴きに行けば、祟りを受けると」
「そうです」
「村人は無事なのですか」
「中まで入った村の人は果てています」
「中とは」
「この斜面の端に穴があるんです。鳥居の向こう側です。原っぱの端です。そこまで行かないと穴は見えません」
「穴」
「赤穴と呼んでいます」
「あなたは見られましたか」
「遠くから一度だけ」
「良い事を聞きました」
「それで、何をされるわけですか。ただの調査ですか」
「そうです。村の風習を研究しているのです」
「その後、何をされるのかは知りませんが、調査も無理です」
「他に何かありませんか」
「私達が村から全員出たのは、私がまだ子供の頃でしたが、その頃、村興しで村の行事を増やそうとしていたのです。まだ元気があったのでしょうねえ。それで誰かが赤神様のことを言い出したのです。言い伝えを破ったわけです。あの多くの鳥居の意味を無視してね」
「ではそのとき」
「はい、赤穴へ行く前に、もう行けなくなりましたよ。赤神様に聞かれたのでしょうねえ。その後……」
「その後どうなりました」
「まだ物心がつくかつかないかの頃なので、よく覚えていませんが、引っ越しの準備をしていました。何があったのか知りません。村人全員が逃げ出しました」
「その話、聞きました」
「ボケてうっかり話した人でしょ。しかし、その人も何があったのかまでは知らないはず。私も親に聞きましたが、教えてくれませんでした」
「じゃ、どんな祟りがあったのかどうかも分からないと」
「何かあったのでしょ。逃げ遅れたのか、逃げられなくなっていたのかは分かりませんが、村にそのまま残った人が何人かいます。そのまま行方不明です。その人達なら、何が起こったかを知っているはずですが」
「はあ」
「それでも調査に行きますか」
「時代が違います。それに装備も」
「そうですか」
「今日はもの凄く参考になるお話し、どうも有り難うございます。きっと口を閉ざされるのではと心配していました。これは謝礼です。お受け取り下さい」
「そうですか」
「これで、調査は本決まりになるでしょ」
 喫茶店の階段を降りるとき、その調査員の背中を見た木島は、悪いことを話してしまったと後悔した」
「後日、またお伺いに窺いますが、そのときもよろしく」
「はい」
 しかし、その調査員、二度と来ることはなかった。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:50| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする