2017年10月21日

3419話 やまない雨


 物事が思う通りいってるときは勢いがある。気勢がある。意気込みというのは、上手くいっているときほどある。悪いときの意気込みは、気持ちだけで、不安な雲が見え隠れし、落ち着きがない。落ち着かないので、空元気を出し、やる気を奮い起こすのだが、これは皮一枚の気勢で、全体的なものではない。存在そのものの押し出しが強いと気合いを入れなくても進んでいける。順風満帆というやつだ。
 これは上手くいっているときで、物事が思う通りに進んでいるとき。これがベストなのだが、そうはいかないことが多い。
「また躓きましたか」
「はい」
「上手くいっていたのじゃありませんか」
「少し欲を出しました」
「それはいいことでしょ」
「上手くいっていたので、これもできる、あれもできると、欲を出したため、全体が萎んでしまいました」
「ありがちなことです。それだけの話です」
「そうなんですが、上手く事が運んでいたのはどうしてでしょうねえ。欲がなかったからでしょうか」
「思う通りの思うが」
「え、思う」
「思う通りの思うが、少なめだったためでしょ。思いが少ない」
「ああ、なるほど」
「欲がないのではなく、少なかったのです。欲張らなかったためでしょ。だからそれほど敷居は高くない。そのため、思う通りになる」
「つまり、あまり期待していなかったとか」
「それもありますねえ。思う通りいくと思いたいという期待があるのかもしれません」
「じゃ、思う通りに行くコツは、欲をかかないことですね」
「そうです。かかないことです」
「それと」
「はい」
「上手くいきすぎたときは再現が難しい。今度同じことをするとき、同じようにいきませんからね。また、前回は上手くいったのに、今回は上手くいかないこともあるでしょ。それほど条件は違っていないのに」
「あります」
「前回上手くいったので、今回も上手くいくと期待するからです。そう思い通りにはならないわけです」
「なぜでしょう」
「前回上手くいった理由を考えてみるとよろしい」
「期待していませんでした。上手くいくとは」
「そうです。それです」
「期待してはいけないということですね」
「成功するものだと思うと、思う通りにはいきません。そんなことを思うからです」
「しかし、何か思うでしょ」
「思います」
「じゃ、何ともなりません」
「しかし、今回思う通りにいかなければ、それで均衡が取れます。次にやるときは、もう期待しないでしょ。思い通りにはいかないこともあると」
「それで期待しないでやれるわけですね」
「そうです」
「じゃ、思い通りにならないということを思いながらやります」
「単純な話です。ただの気持ちの問題でしょ」
「はい、しかし、思い通り事が進んでいない日々は楽しさがありません。長くこんな日々を過ごしていると、病気になりそうです」
「なりましたか」
「まだですが、元気がありません」
「ずっと元気だと危険でしょ」
「そうですねえ」
「まあ、上手くいかないときは諦めることです」
「そんな単純な」
「弄らない方がいいのです。やまない雨はありません」
「あ、はい」
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 11:14| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする