2017年11月07日

3435話 酒見が原


 酒見が原を右手に見つつの山道は見晴らしがよく、明るい。陽気な場所。酒見が原は山の取っ付きにあるのだがなだらかで樹木がない。草原だ。これが街が近ければ何か建つのだが、山中のため、自動車道さえ近くを走っていない。
 元々は坂見が原と言っており、景観がいいので遠出し、ここで酒盛りをする人がいた。そういう風流人がひと組でもあれば、それに続くのか、冬場は別として、季候の良いときは人が集まることが多い。花見のようなものだが、外でご飯を食べるだけでもよい。今のピクニックのようなもの。
 酒見が原は確かに坂だが、草地が終わるあたりから山らしくなり、あとは普通の山へと繋がっている。なぜここだけが草地で樹木が育たないのかは分からない。もっと昔を知る人は、そこは砂地だったようだ。火山と関係しているのかもしれない。
 その酒見が原を右手に見ながらの道はハイキング道で、日用の道ではない。酒見が原とは別の山塊を抜ける道で、旧街道でさえない。そのまま進めばより深い山にへと続いている。普通の人が通るとすればハイキング以外に用はない。
 坂見が原から酒見が原になったのだが、今はそんなところで酒盛りなどする人はいない。そのため草原に入り込む人もいない。ハイキング道から見える草原として、見晴らしがよく、ここだけは妙に明るい。だから人気があるのだが、それはハイカーの間だけ。その写真もその手の本や雑誌やネットなどに載っているが、観光地ではないので、それを見に行く人もいない。
 また酒見が原の緩やかな坂の上にある山は人気がなく、ハイキングコースにも乗っていない。それ以前に原っぱなので道がない。
 こういった他の場所とは違うところには伝説が生まれる。場所が先で、話はあとだ。その場所だからこそ似合うような話ができる。
 しかし、坂見が原を酒見が原と捩ったため、それが通称になり、地図には記されていないが、ハイキング地図にはしっかりと酒見が原と書かれている。ただそれだけの芸当で、それ以上の話は生まれなかったようだ。
 花見は分かるが、酒見の意味が分かりにくい。花を肴に酒を飲むというのは分かる。しかし酒を見ながら酒を飲むというのは当たり前の話だ。そのまますぎる。実際には草原を肴とした宴になるはずなので、酒だけを飲んでいるわけではない。場所のアテがある。
 謂われや伝説、昔話ができそうでできないまま終わった場所だ。
 坂見が原を酒見が原と捩った人なら、何かそれらしい物語を作れたかもしれないが洒落は上手いがストーリー力はなかったようだ。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 11:03| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする