2017年11月23日

3451話 闇太郎


 寒くなってきたためか、妖怪博士はホームゴタツの中で固まっていた。南に面した奥の六畳がいやに暗い。既に日が暮れかかっているためだろう。
 妖怪博士は長すぎる昼寝から起きたあとも、またうたた寝をしていたようだ。
 誰かが戸を叩かなければ、そのまま朝まで寝てしまい、そのまま冬眠していたかもしれない。
 誰かが来ていることが分かったので、電気を付け、客を迎えた。
「闇太郎ですかな」
「そうです。あれは闇太郎です。最近よく見かけます」
 妖怪博士が妖怪名を探す前に、既に客が知っていたことになる。妖怪に名を付けるのが妖怪博士の仕事で、お寺さんが戒名を付けるようなもの。
「何ですかな、その闇太郎とは」
「真っ黒なやつで、町内を歩いています」
「通行人でしょ」
「全身真っ黒です」
「顔もですかな」
「そこまで近付いて見ていませんから分かりませんが、目だけ光っているような」
「頭の形は?」
「坊主です」
「じゃ、闇坊主の親戚でしょ」
「闇坊主ですか」
「あなたが見た闇太郎は闇坊主のことです」
「何ですか、その闇坊主とは」
「海坊主のようなものです」
「はあ、しかし私が見たのは陸にいました」
「進化して陸に上がったのでしょう」
「最近その闇太郎がウロウロしています。何度も見ました」
「時間は」
「深夜です」
「深夜の町で見かけたのですな」
「そうです」
「あなた、そんな真夜中、どうして外に?」
「はい、夜中の散歩が趣味でして」
「趣味?」
「いえ、趣味と言ってますが、実は昼夜逆転しまして、夜中中起きているのです」
「じゃ、今は」
「今は起きたところです。これから一日が始まります」
「あ、そう」
「夜中の散歩。これは僕にとっては昼間の散歩と同じことなのですが、町内を一回りします。そのとき、見かけるようになったのです」
「見ただけですかな」
「そうです。闇太郎に近付いていくと、逃げていきます」
「じゃ、散歩しているだけでしょ。その闇太郎は」
「闇坊主はどんな感じです。闇太郎と同じものでしょ」
「闇坊主は大人しい妖怪で、海坊主のような荒々しさはありません。岡に上がった魚のようなものですからな」
「闇坊主は何をする妖怪でしょうか」
「だから、散歩しているだけですよ。それだけの妖怪です。まあ、妖怪は何か一点だけに凝り固まったようなのが多いのです」
「散歩だけですか」
「散歩というか、暗い場所を黒い姿でウロウロするのですがね」
「僕はどうすればいいのでしょ。そんなものを見てしまったのですから、何か怖いことでもあるような」
「ああ、闇坊主を見るようになれば、少し危険だと言われていますなあ」
「昼間が嫌いなのです」
「どなたが」
「私がです」
「あ、そう」
「だから夜に引き籠もっています」
「なるほど」
「それがやはりだめなんでしょうねえ。それで闇太郎を見てしまうのでしょう」
「ところで、どうして闇太郎という名を?」
「分かりません。それを見たとき、あ、闇太郎だと思ったからです」
「確かに昔の盗賊で闇太郎という架空の人物はいますし、付けやすい名なので、他にもいるでしょ。過去に闇太郎という名を聞いた記憶はありませんか」
「ありません」
「あ、そう」
「これは何でしょう」
「このままでは闇の世界に引きずり込まれます」
「その気がします。もっと濃い闇の世界に籠もりたいと思っていましたから」
「闇坊主、それは闇の病とも言われています」
「やはり普通の生活に戻れということですか」
「それは自覚しておられるでしょ」
「はい、闇太郎がその警告だと思います」
「理解が早いですなあ」
「いえ」
「じゃ、そういうことでいいですね」
 そして客は去って行った。
 妖怪博士は見料を取るのを忘れてしまった。いつもなら適当な護符や御札を渡して、札料を取るのだが、別に魔除けを必要とする妖怪でもなく、また本人も生活習慣を改めるということで、解決したようなもの。
 客が帰ったあと、またホームゴタツでうたた寝を始めたのだが、長い昼寝だったので、もう眠気はない。ただ寒いので、じっと座って固まっているだけ。
 そして寝る時間になったので、蒲団を敷いたのだが、目が冴えて眠れそうにない。
 眠れいないときは資料の整理にあたるので、それをやっていると、寝たのは朝方だった。そういうサイクルが続き、妖怪博士自身が昼夜逆転してしまった。
 客が見た闇太郎。昔からいる闇坊主。これは人から移るようだ。まるで風邪じゃなと、妖怪博士は苦笑いした。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:57| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする