2017年11月24日

3452話 ガード下の幽霊


 いかにも出そうなガード下に、妖怪博士が出向いた。待ち合わせのためだ。出ると言えば幽霊。ここは幽霊スポット。待ち合わせ相手は幽霊博士。
「わざわざすみません」幽霊博士はまだ若いのだが老けて見える。目の周りが黒い。
「ここは有名な心霊スポットですかな」
「そうです。たまには先生の意見を聞きたくて」
「そうなのですか。しかしガード下では最近の幽霊ですなあ」
「戦前からありますから、結構古いです」
「こんなところに線路がありましたか。知りませんでした。あるはずがない線路じゃないのですかな」
「そこまで大袈裟なスポットではありません。それじゃスポットじゃなく線です。それにエリアが広すぎますよ。しかし、確かにこの線路は馴染みがないと思います」
「何線ですか」
「貨物の引き込み線です」
「じゃ、乗ったことがないはず」
「戦前からあります」
「では幽霊とは幽霊列車ですかな」
「違います。このガード下に出るのです。鉄道とは関係ありません」
「どうしてここなのですかな」
「出やすい雰囲気のためでしょう」
「それでもう解が出ておるじゃないか。私を呼ぶ必要はありませんよ幽霊博士」
「ここでの目撃例が非常に多いのです。だから有名な心霊スポットになっています」
「見ましたか」
「何を」
「幽霊ですよ」
「残念ながら僕は幽霊を追っていますが、一度も幽霊を見たことがないのです」
「それは健全だ。しかしあまりこの種のものには深入りしない方がよろしいですぞ」
「霊に接していると、健康によくないようです」
「そうじゃろ」
「そこで相談なのですが、いませんか」
「何が」
「妖怪です」
「ここは幽霊じゃろ」
「いえ、心霊スポットと言われているところは、実は妖怪の仕業ではないかと思うのです」
「それじゃ、あなたの仕事がなくなりますぞ」
「何か、それらしい妖怪がいそうな雰囲気はありませんか」
「さあ、急に問われても」
 ガード下は普通の道路と違い、側壁が汚れ、岩のようにも見える。普通の道路よりも野性的で、グロテスク。気持ち悪い場所。
「つまり、狐狸がそういう化かし方をしているのではないかということかね」
「下等霊の仕業が多いのです。人じゃなく、動物霊です」
「見ましたか」
「見ていません」
「写真はありませんかな」
「ここでの心霊写真は腐るほどありますが、全て合成です。動物は一枚もありません」
「あ、そう」
「だから幽霊など出ないのです」
「幽霊博士がそう仰るのなら、身も蓋もなくなりますぞ」
「僕は心霊を研究しているだけなので、商売でやっているわけではありません」
「今回は依頼じゃなかったのですか」
「依頼で何度も調べに来ましたが、分からないままです。だから手詰まりで」
「上の引き込み線が臭いようですが」
「僕もそれを考えましたが、幽霊とは結び付きません。貨物でしょ。客車じゃない」
「色々な荷が通ったのでしょうなあ」
「貨車ですから」
「人ではなく、物。人なら幽霊、物なら物の怪」
「そう来ますか」
「このガード下。列車からすれば、鉄橋。そして下から空が見える。隙間が一杯。天上が塞がれておらんガード下」
「荷は落ちないと思いますが」
「しかし、そういうものと繋がっている接点かもしれん」
「そうですが、ここでの目撃例の霊は鉄道とも貨物とも関係ありません。ずぶ濡れの女性が座っていたり、足音や大勢の声が聞こえたり、ここを通過中悪寒がしたり」
「座り込んでいる女性以外に、どんな幽霊が出ていますかな」
「ビニール傘だけが歩いて来るとか。側壁に人の顔が現れるとか」
「それらを全て幽霊博士は調べられたわけでしょ」
「はい、共通しそうな原因はありません。バラバラです」
「じゃ、嘘でしょ」
「写真も合成ですから」
「出やすい場所とは、出やすい雰囲気だからでしょうなあ」
「妖怪の可能性はありませんか」
「妖怪が人を化かすことは多くありますが、全て幻覚です。だから化かされた人の数だけネタが違うのです」
「バラバラなのはそのためではないかと思い、先生をお呼びしました」
「つまりこれは幽霊ではなく、怪だと」
「ただの怪異だと思います」
「似たようなものじゃ。どちらも怪しい話。つまりその現象が怪しいのではなく、話が怪しいのですよ」
「僕もそう思います」
「しかし、それじゃ仕事にならんでしょ」
「一つ一つの嘘話を追っていくうちに、健康を害したようです」
「病院へ行きなさい」
「しかし、因果な商売です」
「あなたの目の周りが黒いのは、悪い霊が憑いているためかもしれませんぞ」
「そのこともあって、先生に相談を」
「じゃ、きっと下等な霊。所謂動物霊。そして私にいわせれば、それは妖怪」
「はい、何とかなりませんか」
「幽霊の正体よりも、あなた自身のことですね」
「そうです」
「切り札があります」
「ああ、あの御札は効きませんでした」
「そりゃ気の毒だ。気のせいじゃ済まないところにおるようじゃな」
「はい」
「内臓が悪いのでしょ」
「はあ」
 幽霊を見たことのない幽霊博士と、妖怪を見たことがない妖怪博士なので、それ以上調べようがなかったようだ。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:20| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする