2017年12月01日

3459話 小夜が来る


 賑やかな港町から少し離れた場所に城下町がある。こちらはひっそりとしているのだが、城下やその周辺の村々に小夜が来る。一寸した夜のひとときということだが、妙な間だ。
 小夜は武家屋敷にも来るし、町屋や百姓家にも来る。
「小夜いらんかえー」と、暮れかけたとき、物売りが来る。何も持っていないので、何を売りに来ているのかは分からないが、小夜と言っているのだから、小夜を売りに来ている。
 子供がこの声を聞くと怖いことになると言われ、親は耳を塞ぐらしい。
 半纏を着た小男が売り歩いているのだが、客はそれを見付け、近付く。そこで軽く立ち話。それで売ったことになり、買ったことになる。小男は客の家と名だけ確認する。一枚の紙にそれを書き、もう一枚を客に渡す。御札のようなものだが、名が書かれている。
 つまり、これは小夜の宅配。
 しばらくすると、小夜が客の家なり屋敷なりを訪れるが、裏口からそっと招き入れる。
 他の地方ではこういうものはないが、この地域だけにある。似たようなものとして北国の雪女もあるが、それは素人だが、こちらはプロ。
 この城下だけにそんな風習があるのは賑やかな港が近いためだ。ここは大歓楽街でもあり、遊郭が無数ある。
 その夜あぶれた遊女が出張しているだけのことだが、それを小夜と呼んでいる。
 売れ残りなので安いということもあり、また遊郭まで行くのを躊躇う人のため、それなりに流行り、常連客も多い。
 問題は日本家屋の間取りだが、そこは心得たもので、小夜の間というのをそれとなく作っている。
 小夜達はコスプレではないが、客に合わせた服装で来る。按摩に扮した小夜もおり、これはそのまま出張マッサージだろう。何かの師匠や、武家のお女中姿もある。これは家人を誤魔化すためだが、そんなものはバレている。
 また城下に小夜が歩いていると、すぐに分かる。これも丸わかりなのだが、見て見ぬ振りをする。
 小夜。一寸した夜の間。
「小夜いらんかえー」の声は鉄道ができ、港町が寂れ始める頃まで聞こえていたらしい。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 11:19| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする