2018年04月03日

3583話 当を得た話


 狙いすぎるとなかなか命中しない。当てるために狙うのだが、標的を意識しすぎると、これが本当に標的なのか、本当は違うものを狙っているのではないかと、ふとそういう意識まで浮かんでくる。狙った瞬間に射ればそんなことはないが、一瞬だとそれが正しい標的かどうかは分からない。もう少し調べる時間が必要だろう。
 狙いすぎると意識しすぎる。これをプレッシャーと呼んでいるが、意識的にならないと狙えないものは標的としてふさわしくない可能性もある。しかし気楽に射られる目的なら、大した価値はないので、狙いもしないだろう。
「意識しすぎて動けないと」
「そうです。困ったことです」
「最初からそうでしたか」
「いえ、最初はあとのことなど考えていませんので、もっと気楽でした」
「すぐに射ればどうでした」
「的に当たっていたと思います」
「今は」
「怖くて駄目です」
「しかし、当たるでしょ。その標的に」
「はい、当たります。外れないと思いますが、射る気がどんどん失せてきました」
「困りましたねえ。早く射れば良かったのに」
「そうなんです。しかし、少し間が空いたので逆に色々なことが見えてきました。それを射落とすと実はあとで大変なことになることが分かりました」
「それは解決しませんか」
「しますが、面倒なことが色々待っています」
「それで躊躇を」
「はい」
「じゃ、標的を間違えたのでしょ」
「そうなんです。だから間を置いたおかげで、大変なことになることが分かり、あのとき、射なかった方がよかったと思いました」
「じゃ、別の目的に変えるのですか」
「そうです。標的を変えます。標的を間違っていました」
「それで、見付かりましたか」
「何を」
「だから、新しい標的です」
「ありません」
「見付からないと」
「はい、やはりあの標的なのです」
「しかし、射たとしても面倒なことになるわけでしょ」
「だから、動けません」
「別のを探し続けるしかありませんねえ」
「いや、別の標的も確かに無いわけじゃ有りませんが、今一つです。本来の目的を果たせません」
「やはり本来の標的を射たいわけですね」
「あのとき射貫いていれば」
「そうですねえ。今からでも遅くないですよ。あとのことはあとのことして」
「いや、あとのことを考えてしまいますから、鏃を向けられません」
「意識しすぎです」
「はい、考えすぎました」
「じゃ、無の境地で」
「そんな境地は無理です」
「目を瞑っていることです」
「それじゃ当たりません」
「困りましたねえ」
「何か策はありませんか」
「策というのは意識しないとできません」
「他に、何か良い方法を教えて下さい」
「寝起きです」
「はあ」
「寝起きにやりなさい」
「はあ」
「意識がまだしっかりとしていない寝起き、目が覚めた瞬間、さっとやればいけます」
「でも躊躇するはず」
「目が覚めてからすぐです。すぐにやらないと、意識が戻ってきます」
「はあ」
「朝でなくてもよろしい。昼寝のあとでもよろしい。うたた寝のあとでもよろしい。間を空けると寝起きのぼんやりとしたのが消えていきますから」
「なるほど」
「最初の気楽な気持ちに近いはずです」
「やってみます」
 それからしばらくして。
「どうでした」
「やりました。寝起きすぐに」
「おめでとう」
「しかし、別の的を間違って射てました」
「ああ、それは惜しい」
「いえ、意外とこれが正解でした」
「あ、そう」
 
   了



posted by 川崎ゆきお at 11:24| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする