2018年05月09日

3619話 ある小者


 火縄銃、当時は種子島と呼ばれていたが、その威力で今までの鎧では役に立たなくなった。
 松下嘉平という人は、種子島をはじき返す鎧があると聞き、欲しくなった。それはあくまでも噂で、何処で売っているのかは分からない。領内では聞かないので、他国。堺あたりへ行けばあるかもしれないと思い、小者に銭を持たせ、買いに行かせた。
 小者は流れ者だったが、真面目に仕えていた。嘉平は良い人で、しかも真面目な人。まあ、普通の武将だろう。地位は低くはない。
 使い走りの小者は、それこそお使いに出たことになるのだが、松下家にいても何ともならないと思い、そのまま逃げた。銭を腹に飲んだまま。
 その銭で針を買い、針の行商で諸国をウロウロした。一箇所にいるより鼠のようにちょろちょろしている方が合っていたのだろう。
 それから月日が流れた。
 天下を取った秀吉は大坂城で諸国の大名とよく合っていた。
 派手好きな秀吉は演出も凄い。金ぴかの大広間に客を迎え入れるのだが、少しも威張らない。そして大袈裟すぎるほど歓迎した。
 しかし、最近は自信が付いたのか、横柄になり、天下人しての貫禄が出てきた。既に武家の中では最高位。頭を下げる相手は天子様しかいない。
 その日も大名家から挨拶を受けるため、大広前へ向かっていたのだが、相手は少領の田舎大名。
 秀吉は別の用事で出ていたので、大広間への通路が同じ廊下になった。奥から入れば、こんなところで顔を合わせなくても済むのだが、気を遣うような大名ではないので、一緒に向かってもいい。そこは気さくな人なので。
 これでは大広間上段に姿を現す見せ場がなくなるが、それにも飽きたのだろう。
 まだ若い当主らしい。一度顔を見たことがあるが、戦わずに取った。従属を願い出たためだ。その一行が廊下を通り過ぎるのを見ていたのだが、家来が三人ほど付いてきている。
 秀吉の小姓が異変に気付いた。秀吉の様子がおかしい。そして急に隠れてしまった。
 二人の小姓は慌てて追いかけたが、もの凄く早い。
 田舎大名の家来の中に老人がいた。秀吉はそれを見たようだ。
 その老人、松下嘉平だった。
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 11:31| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする