2018年05月12日

3622話 闇のパトス


 ある閃きを得たなら、すぐに実行すればよかったのだが、竹下はもっと丁寧に検証することにした。そのまま実行に移すのは無茶だと考えた。しかしこれが後で考えるとブレーキになり、一瞬の閃きがもう閃かなくなった。
 一瞬光を見たのだが、その後の検証で闇が見え始め、暗くなり出した。暗雲だ。
 最初に閃いたときは晴れていたのだろう。しかしよく調べていくうちに雲が見えだし、そのうち黒雲となり、まさに暗雲。
 では最初に見たあの明るさ、あの閃き。そして希望。わくわく感は何だったのか。それはよく知らなかったためなのだが、かえってそれが邪魔をし、動けなくなった。
 あのとき、もし、さっと動いておればどうなったのかと、今も想像する。あくまでも想像だが、その想像の材料が揃いすぎたため、点数が低くなったどころか、これはやってはいけないことに見えたため、想像もまた、それに合わせたものになる。
 しかし竹下の今までの経験で、成功したときのことを思い出すと、いずれも何も考えないで実行したケースが多い。熟考したものは殆ど全滅している。考えが足りないのはいけないが、足りないからこそできることがある。
 成功例を思い出すと、そういう細かいことは後回しにして突っ込んでみたいという衝動が強かった。考えるとできなくなるので、考えないのではなく、やりたいから突っ走ったのだろう。これは衝動的で、危険。しかし、人道上に関わらないことなら、問題はない。
 ここで突破しないといけないのは世間ではなく、竹下自身なのだ。自分との戦いのようなもので、止めているのは自分。敵は自分。
 動いてみて初めて分かることもあり、勢いだけで出ても二三歩で終わることもある。そういうことばかりを繰り返しているため、竹下はよく考える人になったのだが、この安全装置のおかげで、冒険ができなくなった。
 つまり安全地帯しか歩かなくなる。欲しい物は安全地帯にはない。だから釣り上げる魚も小さい。
 それよりも最近は閃かなくなった。インスピレーションではなく、情動のようなものだろう。このエネルギーは強い。それを使わないで動くので、いつも何か燃焼不足。当たり前のことが当たり前にできるだけなら感動はない。
 竹下が思っているわくわくする世界とは、シナリオがない、筋書きにないことと出合うことだろう。物語は語り出さないと生まれないようもの。何が飛び出すのかが分からないからいいのかもしれない。
 竹下は次回、何か閃いたときは、そのまま突っ込んでやろうと決心した。
 しかし、閃き路線を封印していたためか、最近は何も閃かなくなったようだ。
 一瞬の閃き、それは眩しいばかりの光を見ると同時に、闇のパトスで走れるのだろう。
 
   了
 



posted by 川崎ゆきお at 11:51| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする