2018年05月27日

3637話 故郷は遠く


 明日から何をやろうかと黒岩は思った。やることがないのだ。だから探している。それが見付かればそんなことを思うこともない。
 それほど長い勤め先ではなかったが、会社を辞めた。何度目かになるが自分で辞めたわけではない。また解雇されたわけでも。単に潰れた。失業保険があるので、すぐには困らない。もう若くはないが年寄りでもない。中途半端な年齢。再就職を考えると頭が痛くなる。それで、この痛さを消すため、もう会社へは行かないことにした。
 田舎の両親も年をとり、戻ってきて欲しいらしい。実家は裕福。働かなくてもいい。
 黒岩は独り身なので、好きなようにすればいいのだが、このまま大きな街に留まるのなら、やはり仕事に出ないといけない。これは痛いので、選択肢は一番楽なUターン。生まれ育った実家のある町へ戻ればいい。反対する人も邪魔する人もいない。悪く思う人もいない。
 もっと年をとり、退職すれば帰ろうと思っていたのだが、早くなってしまった。予定にはなかった。
 しかし、そういう帰れる場所、食べていける場所があるだけでも幸せだろう。
 田舎の町は遠い。僻地。村が町になったのは合併したため。陸の孤島と言われているが、田舎とはいえ町らしさはある。農家しかないような村ではない。
 そして田舎町へと鉄道を乗り継ぎ、最後はバスに乗り込み、故郷へ。
 ところがバスに乗ってから、妙なことになった。毎年盆と正月には帰っているので、慣れたものだが、風景が違う。最後に戻ったのは正月。それから数ヶ月も経っていない。これだけ変わるわけがない。
 この季節なら山は青葉で輝いているのだが、茶色い。禿げ山になっている。そんな計画は聞いていない。それに宅地化するにしても、人が減っているほどなので、誰も引っ越してこないだろう。
 山が荒れていることは聞いていたが、木がない山がある。灌木や下草もない。災害はなかったはず。
 さらに進むと、橋がない。これでは川を渡れないではないか。山裾の川なので、流れが速い。
 しかし、橋があった両岸に建物がある。何もなかったはずだ。さらにバスが近付くと、川船が見える。
 木造の古ぼけた建物の前でバスは止まり、全員降りた。まだ終点ではないのに。
 つまり、連絡船に乗り、向こう岸から出るバスに乗り移れということだ。
 建物はその休憩所のようなものだろか。
 バスを降り、その建物に近付くと、宿屋もある。水かさが増えたり流れが急すぎる場合、渡し船が出せないらしい。ここは何時代だ。
 幸いその日は晴れている。ここで足止めを食う心配はないが、それ以前に橋がないのがおかしい。流されたわけでもないだろう。
 そしてバス客と一緒に建物内に入り、連絡船を待つことにしたのだが、出ないらしい。
 ストライキで、止まっているとか。
 客引きがちょろちょろ出てきた。何軒か宿屋があるようだ。ストは二三日で終わるので、それまで、ここで待つしかない。
 仕方なく黒岩はここで泊まることにした。当然バス料金とは別に宿賃がいる。
 何か間違いがあったのだろうか。今は初夏だが、正月にはこんな建物はなかったし、橋もあった。
 宿屋は意外と古い。かなり前から建っていたことになる。
 何か間違いがあったのだろうか。
 もし、渡し船が動き、向こう岸に着き、そこのバスに乗れたとしても、本当に田舎の実家に辿り着けるのだろうか。そこは、もうこの現代とは違う町である可能性が高まってきた。
 何か間違いがあったのだろう。
 
   了



posted by 川崎ゆきお at 11:08| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする