2018年06月02日

3643話 隠谷


 玄武谷三人衆というのがいる。ここは渓谷の村で、三村あり、その村長達のことを三人衆と呼んでいるのだが、実は親方達。田畑で食べていける場所ではないので、職人集団。木工と石工がいる。そして飾り職人も、この三者が三村で暮らしている。定着している。玄武谷の入り口に飾り職人の村があり、ここが玄武谷の中心。宿屋もあり、店屋もある。その奥に石工の村があり、その手前の支流の先に木工の村がある。
 そこで作られているのは民芸品のようなものだが、木仏や石仏も作られる。大したものではないのだが、安い。お寺の本尊になるような仏像ではない。
 大寺や大社建造などでは、その周辺に職人の村ができたりするが、そういった出稼ぎの職人をこの玄武谷からも多く出しているが、常にあるものではない。
 僻地で農業ができないので、そんなことをやっているわけではなく、最初からこの谷に棲み着いた人達。本邦の人達ではなく、渡って来た人達。実際には逃げてきたのだろう。だから、敢えて僻地に隠れ住んだ。
 そういう技術を公的に伝えに来た渡来人とは別ルート。もっと私的なものだ。
 玄武谷三人衆の親方は、それぞれの出身地のリーダーの末裔だろう。
 木工も石工も既に伝わってしまったあとなので、それほど珍しいものではないが、石工には組合のようなものがあり、これは国際的。そこからの援助も多少はあったのだろう。だから石工の仕事とは別に、秘密裏の使命も託されている。
 木工にも組合がある。石工と同じように互助会のようなもの。助け合うための組織だが、国内にそれが張り巡らされていると、ちょっとしたネットワークになる。
 飾り職人の村は、ここは複数の親方がいる。ジャンルが多いため、組合も多くある。あとは鉄工や陶芸などが加わればいいのだが、その余地がないし、鉱物や良質の粘土が出ないので、これは最初から来ていない。別のところへ行った。
 要するに異国から逃げて来た人達が、人目のつかない僻地で、何とか食いつないでいるということだろう。買い付けに来る商人や個人のための宿屋もある。ただ、村の人達はたまに売りに行く。これは秘密裏の仕事も兼ねている。世間の情報を伝える程度だが。
 この商人の中にも異国の人がいる。これは組織の恩恵で、助けに来てくれているのだ。
 最初は国際的だった組織も、今は職人集団とは関係のない集団になったため、職人達は自分たちで小さな組合を作った。ほんの数人から。
 助け合うのが目的の互助会。その後、講と混ざってしまった。
 玄武谷三人衆がいた三村は、もうない。隠れ住む必要がない時代になったためだろうか。
 今も切り出した石や、加工中の石などが少し残っている。
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 11:43| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする