2018年06月11日

3652話 ポテトチップス


 梅雨時のじめじめした頃、下村は何かからっとしたことはないかと考えた。唐揚げを買って食べればいいのかもしれないが、それではない。しかし最初に思い付いたのは唐揚げ。これはコンビニで売っている。
 だが、一つだけ買うのは買いにくい。他にないかと考えるとポテトチップスがある。これもからっとしている。だが、そういうことではないので、そこから離れないといけない。
 からっとしたこと。晴れ晴れしいことだろう。そんなものは時期が来ないとやって来ないし、そういう状態になるまでの準備も手間暇もかかるだろう。唐揚げを買いに行くような簡単なものではないが、唐揚げだけを買いに行くのは意外と簡単ではない。それならポテトチップスの方が買いやすい。
 晴れ晴れしいこと。これはイベントへ行けばあるかもしれない。だが、それを見たり聞いたりして晴れ晴れしく感じるものでないと無理。そういうイベントが見当たらない。
 気持ちがからっと晴れるようなこと。それは何だろうかと、また下村は探し始めた。しかし、探さないと見つからないものなら心当たりもないのだろう。無理に見つけても強引すぎる。
 やはりポテトチップスでも買って食べる方が安上がり。これでからっとするかどうかは分からないが、するような気がする。ただポテトチップス程度では晴れ晴れしい気にはなれないだろう。
 コンビニで唐揚げだけを買うのも買いにくいが、ポテトチップスを買う場合も似たようなもの。それにコンビニは近くにあり、よく行っているので、もう顔を覚えられている。子供がおやつを買いに行くようなもの。それならば、と思い付いたのは、自転車でないと行けないが百均がある。ここなら買いやすいし、コンビニよりも安い。百円なのだから。
 それで湿気の強い中、自転車で百均まで行くが、いい大人がそれだけのために自転車を走らせるだろうか。おやつが食べたいのではない。からっとしたいのだ。しかしポテトチップスでからっとなる保証は何もない。下村がそう感じているだけの話。
 百均の駄菓子コーナーに行くと、手前に特価台があり、二つで百円セールをやっていた。その中に目的とするポテトチップスがあった。聞いたことのないメーカーで、しかも少し小さいがミニ袋ではない。やや小さい程度。これ二つで百円なら大袋分に匹敵するだろう。
 下村はすぐにカゴに入れ、レジへと向かった。このとき、少し晴れがましい気になった。目指していたポテトチップスが特価台にあったためだ。他のおやつではなく、目的とするものがそこにあった偶然性。これは効く。だから、ほんの少しだが晴れた。
 そして戻ってすぐにポテトチップスをボリボリかじりだした。確かにからっとしている。欲しかったもの、望んでいるものを得たことになるが、二袋目になると、歯茎を痛めた。ポテトチップスは意外と尖った箇所があり、それが歯と歯茎の間にガラスの破片のように突き刺さったのだ。これはたまにある。しばらくは痛い。痛いが食べ続けたい。そのうち収まるので。
 そして二袋分片付けてしまう。口の中が荒れ、油と塩気で少しぐったりきた。
 しかし、その後、からっとしたものが欲しいとか、気の晴れることをしたいとは望まなくなった。それ自体が雑念のようなものだろう。晴れるときは晴れる。晴れないときは晴れない。
 そう悟ったのだが、寝る前になって歯茎が今度は腫れだした。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:41| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする