2018年06月21日

3662話 黄糸神社


 たどり着けない神社がある。自然が険しくて行けない場所ではない。今は住宅地となっている場所で、当然交通の便は普通。しかし参拝はできない。また、お参りするにしても、何が祭られている神社なのか分からないので、用はない。ただ、神社らしきものがあれば、参る人がいる。しかし表道からは見えないので、神社があることさえ気付かない。
 しかしプロは違う。こういうものを見て歩くのを専門にしている高橋という男は聡い。ちょとした欠片からぴんとくるようだ。
 その欠片とは住宅地の庭木にしては少しだけ高いのがあること。この辺りは台地で森が広がっていたので、もっと原生林のように高い木や古木が残っているが、そこから少し離れている。
 そしてさほど高くはないが幹が太い。ものすごく高くなる木ではないのだろう。その一部が通りから見えている。ある角度のところからだけ見える。つまり、前を塞いでいる家の屋根などが邪魔をしているのだが、高い建物ではない。
 そして高橋はそこへ行こうとするのだが、道がない。それらしきものはあるが、車庫への通路だろうか。大きな家の横を走っているが、見たところ行き止まり。その道の奥がどうなっているのかは分からないが、裏側に庭でもあるのだろう。その向こうは別の家。高い木はそのもう少し先。
 それで高橋は回り込むのだが、住宅地に沿って続く細い道から左側にその木があるはずだが、生け垣などが邪魔で、見えない。それが終わると今度は普通の家が軒を連ねている。新しくはないが昔からあったような家でもない。昔はこの高台一体が畑だったようだ。そして左側へ出る抜け道がない。あるにはあるが、家と家の隙間の細い通路で、それぞれの家の裏側に出る程度で、その先を貫いていない。そこから木の一部が見えているのだが、突き当たりの植え込みや塀が邪魔で、どういうところに立っているのかが分からない。
 そしてやっと左へ続く道があるのだが、それでは行き過ぎ。そして三階建てのマンションが木の方角を塞いでいる。マンションの裏側からなら木は確実に見えるはず。ただ、マンション風にはなっているが、何かよく分からない。寮かもしれない。
 道はそこで行き止まりとなり、もう回り込めない。さらにしつこく回り込もうとすると、バス道に出る。そこからは遠い。そしてバス道を回り込むと、最初のところに戻ってくる。
 道で囲まれたかなり広い面積だが、間の道がない。しかしどの家も宅配便の車が入れる程度の道はついている。だから道で繋がっているのだが、その木のある場所だけはどの道からも繋がっていない。
 高橋は、これ以上歩いても分からないので、調べてみた。まずは明治時代に作られた地図。それを図書館で見ると、やはり畑が広がる台地だった。古木が残っている茂み一帯は屋敷跡。金持ちの別荘とかが並んでいたようだ。
 そして神社のマークを発見。あの木がある場所だ。どういう神社なのかを村史などで調べると、黄糸神社。氏神様ではなく、絹糸と関係していたようだ。つまり、高台の畑は桑畑。蚕の餌だ。高橋流に言えばシルク神社となる。
 次に航空写真で見ると、木のある周辺には建物はなく、最初見た車庫への入り口のような道の突き当たりの建物裏にあたるが、広い中庭で、農家の庭によくあるような畑だった。
 桑畑の真ん中に生糸、絹糸の神社がある。特に疑わしいものではない。
 高橋はもっといかがわしく神秘的な神社を期待していた。または神社ではなく、古墳とか、何かの遺跡とか。貞子を落としたような井戸とか。
 しかし繭や蚕や生糸、絹糸などと関係する真面目な神社だったので、がっかりした。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 10:55| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする