2018年06月23日

3664話 ガリ版のエロ本


「吉田君とは長い付き合いなのですが、まずはその縁から話さなければいけないのですが、その前に、なぜ吉田君についてここで今語るのかが問題です。これは是非ともあなたに聞いて頂きたいからです。これはあなたと仲良くなりたいからです。この話がそのため、役に立つでしょう」
「はい」
「その前に吉田君のキャラについて説明が必要でしょう。どういう人間なのかを知ることで、話の理解に役立ちますし、意外性もキャラを説明しておけば、意外ではなく、納得できるものと思われます」
「はい」
「そのキャラなのですが、あるエピソードがあります。それが最も吉田君を表していると思いますので、その話をします」
「はい」
「その話の舞台になったのは柏手町の西の外れにある小道、この道の話ではありませんが、昔からある由緒正しい参道のようで、それを調べていたのですが」
「あのう」
「はい、何か」
「いや、いいです。続けて下さい」
「ああ、小道の話はここでは関係ありませんでしたね、失礼しました。問題は柏手町の西の外れ。ここに妙な店がありましてね。ただの古道具屋、古物商なのですが、古書もやっております。そこにガリ版刷りのエロ本が売られているのです。ガリ版ってご存じですか」
「謄写版でしょ。孔版印刷」
「はいはい、それです。何せ裏本なので、印刷所が引き受けない。当然製本もね。だから、わら半紙に印刷したものを二つ折りにした和綴じ。糸で縫ったものです。これは熱海の温泉街で売られていたとか。その作者は分かっています。熱海の書き師として有名ですが、もうお亡くなりになられたようです。古い時代ですからね」
「はい」
「私と吉田君との出合いは、そのガリ版刷りのエロ本を同時に見つけたことから始まりますが、同時に手を出したわけじゃありませんよ。私が見ているとき、吉田君は他のものを見ていたようです。狭い店なので、客がもう一人いることはすぐに分かります。そして私が本を置くと、さっと交代で、その本を手にしました。しかし、しばらくすると元の位置に戻したようです」
「はい」
「私は、この男に買われる前に買ってやろうと、また本を手にしました。そして値段を見ると、ベラボーな値段。桁が一つ多い。まあガリ版なので百部で原紙のロウ紙が駄目になるようですから、少部数です。それで、その価格では買えないので、また戻しました」
「はい」
「すると彼がすぐに手にして、私と同じように値段を見たあと、さっと戻しました」
「あのう」
「はい」
「エロ本の話ではなく、吉田君のキャラの話でしょ」
「だから、今それをやっている最中じゃありませんか。ガリ版刷りの熱海のエロ本。西の門真か東の熱海かというほどエロ本の産地で有名です。吉田君のキャラを象徴しており、分かりやすい」
「はい、キャラは分かりましたが、その吉田君がどうかしたのですか」
「それが縁で、吉田君と仲良くなりました。エロ本だけではなく、色々と怪しいものに興味のある男でしてね。数少ない同好の士です。その後長い付き合いが始まりました」
「それで」
「え」
「それでどうなるのですか」
「もうなりましたが」
「どのように」
「今、言ったでしょ。その後、仲良くなりましたと」
「それだけですか」
「はい」
「納得できません。我慢して聞いていたのに、展開がないじゃないですか」
「今も、ずっと展開していますよ」
「分かりました。吉田君などどうでもいいのですが、そのエロ本はどうなりました」
「値段の付け間違いだったようです」
「ほう」
「それで桁が一つ取れたのですが、それでもまだ高い。それで、二人で買うことにしました。これなら半額になります。ところが、今度はどちらの所有物にするかという話になりましてね」
「どうなりました」
「お互いに貸し借りする関係の所有物ということにしましたが、吉田君は蔵書用の大きなゴム印を持ってましてね。それを押したいようなのです。私も花印を持ってまして、これを押したい。そこはまあ話し合って、二つ並べて押すことにしました」
「そのガリ版のエロ本の内容はどんなものでした」
「普通の本屋でも売っているような内容ですよ。ただ隠語がもろに出てくる程度。ガリ版ですからねえ、手書きです。だからその隠語のところだけ太い」
「ほほう」
「こんな話、お好きですか?」
「お嫌いです」
 
   了



posted by 川崎ゆきお at 10:12| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする