2018年07月05日

3676話 お隣さんの窓


 何か出そうな夏の深夜。真夏の夜の夢のように、この季節、怪しい気持ちになる。本人が一番怪しいのかもしれないが、怪談のシーズン。ただそれらはこの暑い季節向けに多く作られたためだろう。ひんやりとする怖い話を聞いて涼とした。
 上田は暑苦しくて眠れないので、窓を全部開けることにした。最初からそうしておけばいいのだが、明け方涼しくなり、風邪を引いたことがあるため、その用心で全開しないことにしていた。
 カーテンを開けると隣の家から丸見えになるのだが、立ち上がらない限り、目は合わない。
 隣家はいつもカーテンを閉めているのだが、夜になると雨戸を閉める。そのとき目を合わせることがある。
 上田の部屋は窓辺にテーブルがあり、椅子がある。そこに座って過ごすことが多い。窓は左にある。窓というよりガラス戸。下は磨り硝子だが、上は透明。冬場はカーテンを閉めっぱなしにしているため、お隣さんの様子は分からない。
 左側に動くものを感じる。窓側だ。何かが動くとそこに目がいくもので、それが風で揺れる梢だったり、鳥が揺らした後だったりと様々だが、そういう動きではなく、音が加わる。お隣さんが窓の前に立ち、窓を開け、雨戸を閉める動きだ。お隣さんの姿を見る機会はこれだけ。互いに裏側で接している。
 またお隣さんが窓まで来て立つのはこれだけで、普段は窓辺には来ないようだ。朝と夜の雨戸の開け閉めだけ。
 真夏、雨戸を閉める。当然ガラス窓も。だからエアコン入れているのだろう。またこの家は二階があり、寝室は二階かもしれない。そういえば遅い時間に明かりが灯るのは一階ではなく、二階。たまにテレビの音が聞こえてくることもあるが、大きな音ではない。
 その雨戸開けのとき、動くものがあるので、つい顔をお隣さんに向けてしまう。すぐにお隣さんだと分かったときは既に遅く、目を合わせてしまう。上田はすぐに目を逸らし、顔を元に戻すのだが、もう遅い。上田が反応したことをお隣さんに知られたあとだ。窓に上半身の老人。表情はいつも同じ。窓を開けたあと、一瞬、間がある。外を見ているのだが、そこは上田の裏庭。それぐらいしか見えないはず。
 そして朝なら雨戸開け、夜なら閉める。それだけの動き。
 さて、深夜の話の続きだが、上田は暑苦しいのでガラス戸を全開にしようとしたとき、動くものがある。
 お隣さんが窓を開けているのだ。その上半身が見える。
 その夜、お隣さんが雨戸を閉めたかどうかなど確認していないが、おそらく閉めて寝たのだろう。
 庭の向こうのお隣さんの窓に人がいる。しかも薄暗い。そしていつもより窓を開けてから外を見ている時間が長い。
 上田はお隣さんの顔を見てしまうが、暗いので、表情までは分からない。目がどこにあるのかもよく見えないが、顔と顔が合ったことは確か。
 見続けてはいけないと思い、ガラス戸を全開にするとき、できるだけ大きな音が出るようガタンと開け切った。
 話はそれだけ。
 お隣の老人の寝室は二階。一階は遅くなると明かりが消えている。一階に何があるのかは分からないが夜遅くまでやるような用事ができ、それをやっていたのだろうか。エアコンをつければ窓を開ける必要はない。だから故障かもしれない。
 しかし、その深夜、一階の明かりはつかないままだった。
 事情を聞けば何ということもない話だろうが、付き合いがないので、分からないまま。
 その後、変化はない。
 
   了



posted by 川崎ゆきお at 10:57| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする