2018年07月25日

3695話 墓穴


「夏がゆくのう」
「はい、ゆきます」
「ゆかぬうちに何とかしたいものだが、どうであろう」
「この暑い盛りに決着を付けると」
「そうじゃ、どうせ暑い。だから暑苦しいことは暑いうちにさっとやってしまうに限る」
「しかし、坂上佐渡を追い落とす方法はありませんが」
「坂上が災いの元。元凶。根こそぎ抜くべし」
「しかし、方法がありません」
「配下に集合を掛けよ」
「はい、まずは作戦からですね」
 屋敷に配下が集まり、その中の一人の家来が呼び出された。倉橋という。
「坂上の動きが怪しい」
 倉橋はしばらく考えている。
「坂上の動きが怪しい」
「どのように」
「なに?」
「どのように怪しいのでしょうか」
「どのようにか」
「はい」
「坂上の動きが怪しい。これで分かるだろ」
「ですから、どのように怪しいのですか」
「怪しいといえば、分かるじゃろ」
「はあ」
「どのように怪しいかを探って参れ。気のきかん奴だなあ」
「あ、はい。早速」
 配下は五人ほど集まっていたのだが、集められただけで解散した。だから会議もなかった。
「帰しましたが、それでよかったのですか」
「うむ。追い出す名分が先。まずは倉橋の働きを待つことにする」
「しかし倉橋は頼りない男ですよ。いいんですか」
「そうか。それは知らなんだが、涼しげな顔立ちで賢そうじゃないか」
「それは見かけです」
 その後、倉橋が報告に来た。
「坂上佐渡殿を探りましたが、怪しい点はありません」
「何を聞いておった」
「はあ」
「坂上の動きが怪しいと言っただろ」
「ど、どのように」
「どのようにもクソもあるか、それを作るのが役目だろ」
「ああ」
「ああじゃない」
「気が付きませんでした。作るのですね。怪しい点を」
「怪しいだけではなく、動かぬ証拠を作れ」
「ど、どのようにして」
「それぐらい自分で考えろ」
「はい、早速怪しい証拠を作ります」
「大きい声で言うな」
「はい」
 数日後、倉橋が涼しげな顔で屋敷を訪れた。
「動かぬ証拠、見付けました」
「そうか」
「謀反です」
「おお。それそれ、それが一番」
「坂上屋敷に私兵が集まっています。これは挙兵です」
「本当か」
「はい」
「訓練ではないのか」
「挙兵です」
「誰を狙っておる」
「あのう」
「はっきり申せ」
「それが」
「わしか」
「左様で」
「それもおぬしが作ったのか」
「はい」
「わしでは駄目だろ」
「はい」
「下手な奴だなあ。それに訓練だと言い張るはず。動かぬ証拠を作れと言っただろ」
「なかなかそうは参りません」
「しかし、私兵が集まっているのは事実じゃな」
「はい」
「おぬしが勝手に言っておるだけではないのじゃな」
「そうです」
「おそらく訓練か、狩りにでも行くのだろう」
「はい、そう思います」
「それを謀反に仕立てるのがおぬしの役目」
「ど、どのようにして」
「それがないから困っておるのじゃ」
「それがしにも思い付きません」
「駄目だなあ」
「はい」
「もういい。帰れ」
「はい」
 そこへ側近が現れた。
「駄目なようですなあ」
「坂上の動きが怪しいとわしが言えば、それなりの動きをしてくれると思ったが、そうはいかん」
「倉橋殿だから良かったのですよ」
「どうして」
「そんな芸当ができる男ではありません」
「それは知らなんだ」
「その方が良かったのです。下手な小細工ではどうせ失敗したでしょう」
「しかし、坂上の動きが最近どうも怪しい。それは事実なんじゃ」
「はいはい」
 坂上佐渡はその後も怪しい動きなどは一切していない。
 坂上を陥れようとしていた桜庭家だが、逆に最近の桜庭家の動きが怪しいという噂が立ちだした。
 これで主家の信任が薄くなり、役職から遠ざけられた。
 所謂墓穴を掘ったという話。
 
   了



posted by 川崎ゆきお at 10:19| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする