2018年08月04日

3705話 アクシデント


 七月の暑い頃まで仕事をしていた立花だが、八月になると解放される。仕事が一段落するためだ。八月は遊んで暮らせる。そのため夏休み。しかし、暑いのは七月で、このとき本当は休みたかったのだがそうはいかない。
 七月の末、あと一息で仕事が終わるところまで来ている。暑い中、よくやったと思うものの、それほど詰めてやっていなかった。本当は六月中に終わる仕事なのだが、梅雨時で、しかも晴れると真夏並みに暑い。それで遅れてしまったのだが、これは最初からやる気がなかったため。
 期限は過ぎたのだが、まだ間に合うようなので、ひと月ずらしてもらった。急ぎの用ではないことで助かった。
 それがやっと完成する。あと少し。今日中に上がり、晴れて明日からは休める。だからもう一段落したのと同じ。
 ところが朝、起きてみると体調が良くない。それほど暑い日ではないのだが、それまで暑い日が続いていたので、それが溜まっていたのだろう。夏バテだ。あと僅かで完成するというのに、いやな予感がした。しかし寝込むほどでもない。仕事はできる。最後の際まで来ている。あと一歩なのに。
 これは道で尿意や便意を催し、我慢しながら家に向かっているのだが、家の前で耐えられなくなるのと似ている。その道中我慢できたのに、トイレの前、あと二歩か三歩が我慢できない。もっと多くの歩数を耐えられたのに。これは安心感のためだろ。もう大丈夫と。それで緩むのかもしれない。
 立花は悪い予感がした。夏バテ程度では仕事に支障はない。しかし、どうも調子がいつものようには出ない。慣れた仕事なので、簡単に片付くし、難しい問題はない。それにやる気がないときでもできるので、軽く流せばすむ。それにあと一歩なのだから、一気にやれば数分で済んでしまうかもしれない。
 終われば明日から夏休み。好きなだけ休めるのだから、ここはさっとやってしまおうと考えた。
 悪い予感。それは夏バテではなく、別のことが起こり、仕事どころではなくなること。それが何であるのかは分からない。しかし大災害がこのあと起きたとすれば、遅れた理由を考える必要はない。だから、そんな大規模なものではない。
 何だろう。何が起こるのだろう。
 立花は昨日と同じように仕事を始めた。
 できるではないか。何も起こらないではないか。少し体調が悪い程度。これなら、もうすぐ完成するはず。
 そのはずが、はずではなくなるようなこと。それは思い付かない。現に仕事は捗り、あと一歩どころか半歩まで来ている。あと一押し。
 そのとき。
 最後の最後の箇所に近付いた。あと数秒。それで完成。そのとき。
 何も起こらない。
 とんでもないようなアクシデントというものは、そんなことなど思いもしていないときに起こるのだろう。
 
   了
 
posted by 川崎ゆきお at 11:17| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする