2018年08月07日

3708話 騎馬鉄砲隊


 隣国が攻めてくるらしい。それで対策を練るため、会議となる。
「勝つ見込みはあるのか」
「勝算はあります」
「如何ほどじゃ。相手の方が兵力があると聞いておる。そして国も大きい。勝算があるのなら戦ってもいい。どの程度かもっと詳しゅう話してみよ」
「勝てる可能性があるとか」
「どの程度の可能性なのかを問うておる」
「四分とか」
「四分とな。では敵は六分ではないか」
「互角には戦えましょう。それには相手に攻めさせることです。こちらから攻めますと、四分では無理です」
「四分で勝つと申したのは誰じゃ」
「植岡蕩尽斎殿です」
「変人の居候ではないか」
「はい」
「そのような流浪の浪人ものなど、信用できるか」
「はい」
 といったものの、この重臣、四分で勝つという話が気になり、城下外れの神社に滞在している植岡蕩尽斎を訪ねた。
 重臣は神社横の神主宅離れへ植岡蕩尽斎を訪ねた。陰陽師のような姿で、これはこの時代の軍師に多い。結局は加持祈祷を用い、太鼓や笛で応援する程度。しかし出陣の日取りなども、一応神仏に聞く役目もある。これはいかようにも融通が利くので、ただの縁起物。験の良さを示せばいい。
 当然、この領内にもお抱えの軍師がいる。だから植岡蕩尽斉の席はない。
 では重臣はなぜお抱えの軍師に聞かないのか、当然だが作戦を考える策士ではないためだ。それに軍師は名家が継ぐことになっており、今の軍師は領主の親戚で神社の神主でもある。
 その神社の離れに植岡蕩尽斉が滞在していた。
「四分の勝算とは如何なることでしょう。同じことを十度繰り返したとき、四度は勝ち、六度は負けることですかな。しかし勝負は一度であろう」
「万が一というのがございます。万に一度。これは実質的には無理だという意味です」
「そんなことを聞いておるのではない、何を根拠にそんなことを言われる」
「四分では何度やっても勝てません。十回やっても全部負けるでしょう。相手は六分ですから。五分五なら分かりません。だから五分より上なら勝てます。何度戦っても勝てます。その根拠は互いの状況から分かります。誰が見てもそうなるはず。しかし状況は戦ってみなければ分からぬ面もありまして、それを兵法と呼びます。兵の動かし方いかんにより、状況が変わります」
「ほう」
「お知りになりたいですかな」
「是非聞きたい。勝てる相手ではないが、負ける相手ではない」
「それには計略が必要です」
「まともに戦えば勝てぬからじゃな」
「ところで」
「何じゃ」
「わざわざ私を訪ねてこられたのは、勝とうとしているためでしょ」
「少し欲が出た」
「敵は勝てると思い攻めてきます。当家は負ける思い、守りに徹します。守り抜ける自信があるので、降参しません」
「その通り」
「敵はそれでは満足しません。今回は城を落とせる自信があるので、攻めてきたのでしょう」
「守り抜けぬと」
「落ちない城を落としに来ないでしょう」
「それもそうじゃが」
「そのため、勝たなければ負けましょう。そして軍門に降るしかありません」
「それでどんな策がある」
「敵国を視察しました」
「ほう」
「当然、この国の兵力も」
「比べてどうじゃった」
「兵数は劣るものの、馬が多いですなあ。それと鉄砲や弓が」
「それはわしが整えたもの」
「いい備えですが、守るとき、馬は必要ではありません」
「見抜いたか」
「鉄砲騎馬でしょ」
「ううむ」
「本城に敵を引き付け、遠方から素早く騎馬で背後から挟む策でしょう」
「そこまで分かっておるのか」
「少し視察すれば、誰にでも分かること。敵もそれぐらい見抜いておりましょう」
「確かに」
「策とは、その使い方にあります」
「どうすれば勝てる」
「策を見せないようにすることです」
「しかし、バレておるのではないか」
「騎馬を隠すことです」
「ほう」
「敵は当家の騎馬鉄砲を恐れております。そのため、まずは騎馬部隊を攻撃するでしょう。これされ全滅させれば六分の勝算が八分以上になりましょう」
「騎馬を隠すとな」
「何故騎馬なのかをお忘れですか」
「ん」
「戦闘にはそれほど役立ちません。ただ、移動が早い。鉄砲など一度放てば、二の弾は弓に劣り、しばらく攻撃できません。だからあくまでも脅かすための奇襲。これを活かすのです。敵が動揺し、陣を崩せば勝算あり」
 この領内の騎馬部隊は身分の低い足軽が多く乗っている。いずれも鉄砲打ちだ。普段は猟師で家来ではない。馬だけで高速移動する機動部隊。そして最大の火力を備えている。
「わしも、それをやりたかったのじゃ。実際に戦えば勝てるのじゃ。おぬしは、それを知っておる。流石軍師」
「騎馬の投入さえ上手く行けば、勝てましょう」
「いい御仁と出会えた」
「軍師でなくても、分かること」
 重臣は植岡蕩尽斉に砂金を与えた。
 離れを出たとき、神主でもあるお抱えの軍師が顔を出した。
「もうお帰りですかな」
「いい客人がおりますなあ」
「なあに、居候です。厄介者ですよ」
 その重臣、城に戻ってから殿様や家臣にその作戦を実行するようにすすめたわけではない。何もしなかった。
 その代わり、間者を敵国に送り込んだ。
 鉄砲騎馬の恐ろしさを吹き込むことと、罠が方々に仕掛けられているという噂を流した。
 その効果が出たのか、敵は攻めてこなかった。
 しかし、騎馬鉄砲。鉄砲部隊を馬に乗せればいいというわけではない。馬はその轟音に驚くし、当時の種子島は重いし反動も大きいので、馬の上から打つというのはかなり練習が必要だった。当然馬も。
 確かに植岡蕩尽斉は騎馬鉄砲隊を見たが、馬に乗っているだけの姿でしかない。
 この騎馬鉄砲隊、絵に描いた餅のようなもの。そしてこの部隊、結局一度も出陣したことはない。しかし、神社に絵馬として、今も残っている。鉄砲足軽の乗った馬の絵馬。これは珍しい。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 11:23| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする