2018年09月03日

3735話 マネキン


 駅からすぐに続いている商店街。アーケードのない日向臭い道。その奥にスーパーがあるが、あまり競合しない。八百屋の大きな店程度。商店街には八百屋はない。薬局、雑貨屋、文房具屋など、あるべき店があるように並んでいる。
 日本全国何処にでもあるような小さな駅の小さな商店通り。
 その一番外れは道が横切り、角地に本屋があったが、婦人服店に変わっている。年配向けの洋服屋。カーテンを軽く膨らませて閉めているが、実際には飾りだろう。全部開けるよりも、その丸みを見せるため。
 店は硝子張りなので、内部はよく見える。その窓際にマネキンがある。あるべきものがあるので、別段言うほどのことではないのだが、このマネキンの顔が老けすぎている。いくら年配向けの店でも、そこまでリアルにやることはないだろう。それに、そんなお婆さんに近い顔のマネキンなどないだろう。
 マネキンが着ているのはゆったりとしたカジュアルドレス。アイドルが着るようなものではなく、ややクラシカルで地味。
 客はマネキンの顔など見ないで、服を見る。どの客も、そういう服が着られそうにないことが分かっているので、最初から見ない人もいる。しかし、客ではない人は、着ているものよりも、マネキンの顔に目がいく。そして、動いているものに目がいく。マネキンは動かないが、中の人は動いている。店内の店主も動いているものの一つ。そしてその顔がどことなくマネキンに似ている。
 マネキンの顔は洋物が多い。ところがこのマネキンはオカメのようにふっくらとしており、平べったいし、目尻も下がっている。店主に似ているように見えるのか、またはそういう顔の人はいくらでもいるためか、それは分からないが、似ていると思えばどんどん似てくる。
 夜になると半開きのようなカーテンだけは閉じるのだが、薄いレースなので透けて見えるが、中は暗いので、硝子が反射し、通りが映る程度。しかし、窓際のマネキンは別。
 オカメ顔のマネキンはいつも微笑んでいる。唇が上がり、目元はにっこり顔で、目玉は隠れている。目を細めているのだ。
 ところが……
 ここからが噂話になる。都市伝説と言うほどのものではなく、冗談のようなもの。
 夜、その前を通ると、そのマネキン、目を開けていることがある。怖い顔をし、こちらじっと見ている……とか。
 その後、この年取った店主は亡くなったのか、婦人服店は廃業となったが、店はそのまま。中はからになったが、マネキンだけが残っている。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 11:21| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする