2018年09月04日

3736話 国道の走る町


 引っ越して間もないので、その町がどんな町なのかは里見はよく知らない。郊外にある平凡な町。特に変わったところがないので違いを見出す方が難しかったりする。ただそれは外見。内のことは分からないし、表に出ないのかもしれないが、そんなものは何処で知るのかとなると、そこまでして知る必要もないことから、調べるようなことはしないだろう。必要のある場所程度を把握しておけばよく、またそのときになってから調べてもいい。おそらく他の町と同じようにあるべきものがあるはず。
 里見は寝に帰るだけの部屋との往復程度で、駅までの道しか歩いていない。今まで住んでいた町とそれほど離れていないので、この町もそれなりに知っている。通りかかることもあるためだが、この町を目的として訪れることは今までなかった。ただ住んでいた建物が取り壊されたので、仕方なく引っ越した。
 そのため最寄り駅が変わったが、逆に近くなった。これだけでも満足だ。ただ家賃は少し高かった。
 その日の夕方、最寄り駅に降りたとき、まだ早いことに気付く。いつもなら暗くなってからの帰宅。こんな明るい時間帯に戻るのは久しぶり。夕食は会社近くの繁華街で済ませるのだが、今日は早いので寄っていない。
 それでこの駅前で何か食べて帰ろうとしたのだが、ファストフード系がある程度のあまり何もない駅前。これは分かっていることなので、幹線道路に出て、その道沿いの店を見付けることにした。
 いつもは駅から部屋までの最短コースを通っている。その道以外は知らないも同然。
 自分の住む町。しかし馴染もうという気はない。我が町の自慢とかは生まれ育った町ならともかく、すぐにまた引っ越すことになるので、淡泊なもの。
 里見はいつもの最短コースの道を進み、国道があるはずの左側に入って行った。これは初めての道だが、いつもの道沿いと大した差はない。駅から少し行くともう住宅地で、田畑が残っていたり小さな町工場などもある。平野部にあるため、山は遠くにあり、建物で塞いでいるのか、目印にならない。
 国道に出る道。それをどうして知ったのかは簡単なことで、ただの方角だ。国道の何処に出るのかは分からないが、何処かで引っかかるだろう。
 住宅地の中にポツンと寿司屋がある。こんなところで成り立つのかと思えるほど条件が分からない。これこそ土地の人間でないと分からない何かがあるのだろう。元々は小汚い大衆食堂かうどん屋だったのだが、景気のいいときに寿司屋にしたとか。または仕出しで稼いでいるのかもしれない。
 住宅地にある路だが結構道幅が広い。そのわりには車は少ない。大型トラックが止まっているが、明らかに駐車違反。しかし、その前に土建屋でもあるのか、四階建てのモダンな煉瓦造りの家がある。ただ鉛筆のように細長い。その横に建築関係の資材置き場でもあるのだろう。
 そのトラックを越えると、今度は大きな公園がある。児童公園ではなく、緑地だろうか。プレートを読むと避難所となっている。
 さて、ここまで踏み込めば、そろそろ国道とぶつかるはずなのだが、見えてこない。次の辻、次の辻と幾辻も越えたのだが広い道に出ない。これは方角を間違えたのかもしれない。
 住宅地図が貼り付けてあるので、それを見るが、旧地名とかが書かれている狭いエリアの地図で、国道はない。狭すぎるのだ。
 そのうち薄暗くなってきたので、人に聞いた方が早いと思い、人を探す。
 里見は異変に気付かなかったのは、意識して見ていなかったためだ。
 それはどの辺りからかは忘れたが、人を見ていない。トラックが止まっていた辺りまでは車も見かけたが、辻で左右を見ても、人も車もない。
 町は人でできている。だから寿司屋もあるし、土建屋の建物もあるし、公園もある。
 里見は怖くなり、何処をどう走ったのかは分からないが、灯りが動くのを見た。もう暗くなっていたのだ。灯りは流れるように動いている。灯りの海だ。
 そして灯りが途切れたとき、眩しいほどのネオン看板が見えた。
 国道に出たようだ。
 
   了
 

posted by 川崎ゆきお at 11:01| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする