2018年09月05日

3737話 主力部隊


 蕩尽斉と呼ばれる軍師、軍略家、策士がいる。武家ではなく商家。戦のとき、ぼろ儲けした商人の子として産まれたのだが、遊び倒して財をなくした。まあ、その程度の家だったのだろう。
 家系図を買い、武家として出直したのだが、武芸は今一つ。ただ商才はある。あるなら家は傾かないのだが、財よりも別のものが欲しかった。商才といっても、その中身は情報だろう。
 この蕩尽斉、罠でも仕掛けるように寺に棲み着き、鴨が現れるのを待った。罠とは、有名な軍師が滞在しているという噂を流しただけ。
 早速その罠に掛かってきた。
「敵を知ることが大事かと」
「ご尤も」
「敵は大軍」
「はい。こちらは及びません。だからこそ知恵が必要なのです」
「うむ」
「お教え下さい。勝つ方法を」
 蕩尽斉の情報網は商人にある。そこから得た情報がタネになっているのだが、かなり盛ったもので、蕩尽斉の創作が結構多い。
「敵軍を知ることが肝要かと」
「ご尤も」
「私が見た限り、敵の主力軍は数だけ」
「おお」
「これは見せかけの兵にて、年寄りや弱兵の集まり。これが大軍の正体。恐れる必要はないのです」
「そう言われると、気が楽になりますが、何せ大軍」
「敵の主力は別におります。それが精鋭軍。別部隊として奇襲してきます」
「遊軍ですな」
「主力は見かけ倒し。囮です」
「本当でしょうか」
「それと黒鍬衆が優秀」
 黒鍬衆とは土木部隊のようなもので、橋を架けたり、人馬、荷駄が通れるように道を付けたりする。逆に言えば、相手方の橋を落としたり、道を潰したりする。その他、戦場での後片付けも請け負っている。
「敵はお抱えの黒鍬衆を持っており、これが実は精鋭部隊ではないかと思われます」
「よいことを聞いた。それで、勝つ方法は」
「敵の主力に突っ込めばよろしい」
 その話を聞いた武将は国元に戻り、その策を披露したのだが、やはり張りぼてに近い大軍だとは誰も信じてくれない。
「駄目でした」
「やはり大軍が怖いのでしょう」
「折角いい話を聞いたのに、残念です」
 蕩尽斉はさもあろうというような顔をした。
 その後、戦いが始まった。敵の主力と対峙した瞬間、もう押されて、逃げ出した。そこを敵の遊軍に突かれ、敗走した。
 蕩尽斉の言う通り、逃げないで、大軍に突っ込めば、逃げ出すのは大軍の方だったかもしれない。
 
   了



posted by 川崎ゆきお at 11:19| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする