2018年10月16日

3778話 名家の家宝


 瀬尾家は名家だがそれを隠している。そんなことが問われる時代ではないので、敢えて言う必要もないが、あまり言いたくもはない。今も繁栄している名家ならいいのだが、かなり落ちた。元の木阿弥に戻ったわけではないが、それよりは上等だ。
 瀬尾家は小さな豪族で、数十の兵が動員できる程度。何処にでもいるような小勢力以下のその他だろう。
 ところがその国に現れた有力者が、瞬く間に一国を統一した。瀬尾家はその武将に味方した。僅かな兵だが付き従った。そのうちもっと大きな勢力になり、いつの間にか小さな砦を任されるようになる。小さな市町村規模だろうか。数十の兵しかいなかったころは城も砦も必要ではなかったほど。村同士の争い程度の戦だった。そんな小競り合いをするのは野良仕事よりも儲かるからだ。
 やがてその勢力は全国を統一するほどの勢いになり、瀬尾家は旗揚げ当時からの家来として、さらに領地をもらった。ただし、自分が切り取った領土ではないだけに、いつ飛ばされるかは分からないが、大きな領土を任された。といっても同じ旗揚げに参加していた同僚はもっと出世をしており、それに比べると瀬尾家は小粒。
 ところが、この大殿が急逝した。あとを継いだのは新参者の家臣だが、実力があった。ここでの跡目争いでも、瀬野家は勝ち組に乗った。そのため、また出世したのだが、一国を任されるほどの規模ではない。一万石程度。しかし、一万石を越えると大名だ。
 やがて、その大殿は老衰で亡くなり、系統の違う余所者が牛耳るようになった。瀬野家は迷ったのだが、その余所者に力があり、人徳もあることを知り、それに従った。
 旧勢力と新勢力の戦いで、新勢力が勝ち、瀬野家はそのとき少しだけ手柄を立てた。
 そして都からは離れているが、一国を任せられた。県知事レベルだ。もの凄い出世だ。
 これをこの当主一代で果たしているが、当然、長く戦場にいたためか、怪我の悪化や、膝を痛めたのか、もう歩くのも苦しいとき、大殿に暇乞いの挨拶に行った。息子に譲ると。そして今後もよろしくと。
 ただ、その今後とは、既に天下は統一されており、戦はない。そのため大殿を助けるような仕事はもうなく、手柄も発生しない時代になっていた。
 大殿は、よく仕えてくれたことを労い。与えた国はそのまま瀬尾家に任せると約束してくれた。これが当主最後の戦いだった。
 しかし瀬尾家と同じ外様大名は次々に取り潰された。既にあの人徳のあった大殿も亡くなり、その孫の代になっている。ここで瀬尾家は改易どころか取り潰されたのである。
 瀬尾家も孫の代になっており、一族郎党は古巣に戻った。
 瀬尾家の出身地瀬尾地方。数十人しか兵が動員できない勢力だったのは昔と変わらない。瀬尾本家とでも言うべき大きな屋敷があり、これはまだ残っているし、村のほとんどは瀬尾家の土地。ただ領主はいる。大大名だ。
 もう武士を捨てた孫は、ここで百姓として暮らした。
 この周辺の豪族達から大大名になった仲間もいる。同僚もいる。瀬尾家の家来は、そういうところが引き受けてくれた。
 瀬尾家と同じように、この地方へ戻ってきた大名もいる。この地方から多くの武将が出た。
 考えてみれば、偶然とはいえ、ここから天下を取るだけの人物が現れただけで、瀬尾家や他の豪族もそれに乗りかかっただけのこと。
 瀬尾家が今も裕福なのは、この地から見ると遙か彼方の山陰で広い領土を持っていた時期があったため。
 その地方の神社仏閣をよく保護し、援助もした。そして逆にいいものを譲ってもらったりしたのだろう。今もその宝物のようなものが蔵の中で眠っている。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 11:16| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする