2018年11月09日

3801話 屋根部屋


 安っぽい建売住宅の多い一帯に妖怪博士は足を踏み入れた。昔の長屋のように間口は狭く、一応門はあるが、隣の門とくっついている。そしてガレージがあり、これで庭の全てを使い切ったようなもの、あとはお隣との境界線あたりの余地ぐらい。そこにはエアコンが出っ張っていたりして庭とは言えない。
 敷地が狭くても大きな家を望むのか、三階建てが多く、それらが並んでいる姿はまるで鉛筆。確かに一戸建てだが、申し訳程度の間隔。三階の上に三角の屋根があり、そこは四階に相当する所謂屋根部屋。
 その屋根部屋の異変で妖怪博士は呼び出された。依頼主はその家の主だが、もう年を取っており、夫婦で暮らしている。もう多くの部屋を使うようなことがなく、階段の上り下りもキツイので三階までは滅多に上らないし、四階相当の屋根部屋などはさらに登る機会はない。
 一階はキッチンと食卓。二階は和室で、三階は子供部屋。今は誰もいない。
「夜になると上の方から物音が聞こえるのです」
「はいはい」
「やはり駄目ですねえ」
「どうかしましたか」
「いや、開かずの間じゃありませんが、長く入っていないと怖いものが沸くようで」
「三階の子供部屋ですかな」
「そこはまだいいのですが、その上の屋根部屋」
「はい、何かが出るのは決まって屋根部屋ですからな」
「何がいるのか、調べて欲しいのです」
「何もいないと思いますよ。気のせいです」
「しかし、怖い気配が」
「あなた、佐伯さんとはどんな関係なのですか」
 博士は佐伯から事件を頼まれ、解決したことがある。そのとき、ものすごい額の礼金をもらった。その佐伯からの頼みで、屋根部屋の怪で困っているという知り合いの家を見てきてくれと頼まれた。
「佐伯は昔勤めていた会社の部下です」
「ああ、そうですか」
「じゃ、調べて頂きますか」
「はい」
 二階の畳敷きは普通の和室で、夫婦はここで過ごしているようだ。
 妖怪博士は狭い階段を上がり、三階の洋間に出るが、道場でも開けそうな程何もない板の間。カーテンだけが妙に目立つ。
 その上はもっと急な梯子のような階段があり、それが屋根部屋へと続いている。博士は靴下を脱いで滑らないようにゆっくりと上がる。
 下と同じで、屋根部屋には何もない。何も置いていない。傾斜した壁。端の方では頭を打つ。
 明かり窓から覗くと見晴らしがいい。似たような三階建ての家がずらりと見える。しかし四階相当の屋根部屋があるのは、この家だけのようで、そのため、より高いので、より見晴らしがいい。
 二階の和室に降りてきた妖怪博士は入れ直してもらったお茶をすすっている。
「どうでしたか。何かいましたか」
「いたような、いなかったような」
「はいはい、そんな感じのものです」
「それは下まで降りてこないのですかな」
「はい来ません。三階の板の間までです」
「きっと人が暮らしていない、あるいは使っていない部屋が好きなんでしょうなあ」
「しかし、上を取り壊すわけにはいきません」
「まあ、運動のつもりで、毎日三階と四階を見に行きなさい。それで、人が来ることが分かれば、奴はいなくなりますよ」
「はい、そうします」
 その後、怪しい気配は消えたようだ。
 実は佐伯家でも似たようなことがあり、妖怪博士は見事解決した。使っていない先代の書斎で起こる怪異だった。
 開かずの間にしなくても、ずっと開けなければ、同じこと。何かいそうだと思えば何かいるものだ。
 
   了
 


posted by 川崎ゆきお at 11:23| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする