2018年11月12日

3804話 イモ因果


 風が吹けば桶屋が儲かるというが、これは因果関係がある。しかし因果の繋がりが長すぎて、途中のことなど覚えていない。何かが起これば何かが起こり、その起こったことで、次の何かが起こり、さらにそれに影響を受け、違うものがまた動く。
 吉田はそんな遠い因果関係ではなく、まったく因果の糸が見えない事柄がある。それは普段は気付かない。しかし、思い出そうとすれば思い出せる。
 それはサツマイモ。これを買うと、何かが起こる。変化の前にサツマイモを買っていることになる。しかし、サツマイモを買うタイミングはそれほどない。今日はサツマイモを買おうと思う日もない。
 その日、平凡な日常を過ごしていた吉田は、平凡な散歩の戻り道、信号待ちをしていた。そのすぐ横に煙草屋があり、まだ現役で閉めていない。ただ店内らしきものがあり、土間がある。ここに店があったように吉田は記憶しているが、特に興味深い店ではなかったので、忘れたのだろう。しかし商品を並べて売るだけのスペースはある。普通の民家なので、一部屋潰して店としたのだろう。それは消えているが煙草だけは売っている。
 それを吉田はぼんやりと見ていたのだが、煙草屋の窓口のところに台を出し、そこに野菜を並べている。直販所だろうが、頼まれたのか、知り合いか、または自家栽培でもしているのか、数は少ないが細い目の大根とサツマイモが並んでいる。
 ここで吉田は目をなくした。サツマイモに目がないため。サツマイモそのものに芽はあるが目玉はないので、サツマイモが好物だということ。しかし好物は残しておいた方がいい。だから滅多に買わない。しかし、見てしまうと欲しくなる。分別がなくなるもの。ものを見る目がもうないようなもの。反射神経的に自転車を降り、三つほど盛った汚いサツマイモのザル盛りを窓口にあるカウンターに乗せた。これは煙草屋のカウンターだろう。
 しかし、中に人はいない。
 窓口の少し横にドアがあり、これは店舗時代の出入り口だろう。そこに書きものがあり、御用のときは押して下さいとある。そのベルのようなボタンを押すが何も聞こえない。手応えがない。故障しているようなので、もう一度押す。それでも音はしない。だが、すぐに老婆が店舗跡に姿を現し、ドアまで走り、ロックを外し、開けた。かなり奥まったところで鳴っていたのだろう。
 老婆は薄いビニール袋に笊盛りのサツマイモ三つを詰め込み、悪いところは削って食べて下さいと説明した。スーパーでは売れないような形や色。
 吉田は自転車籠にそれを入れ、ちょうど信号が青になったので、そのまま走る。
 そこで思い出した。
 サツマイモを食べると異変が起こる。
 これは吉田の中ではただのジンクス。本当は信じていないが、全くの嘘ではない。思い当たることが何度もあるが、大した変化や異変ではない。それにちょうどその時期に起こるようなことで、サツマイモとの因果関係は当然ながら説明できない。しかし印象として何処かにそれが残っており、何となく結びつけたりする。
 何処かの島の猿が海水でイモを洗うと、海を越えた場所に住む猿も同じことをやり出すらしい。
 吉田は家に戻ってからおやつに食べるため、蒸かし芋にした。焼き芋よりも簡単だし、煮るとご飯のおかずになるが、カボチャと同じで、量が多いとご飯が進まない。芋で腹が大きくなる。
 蒸したサツマイモは結構硬い。悪いところやへたを切るとき、包丁を入れたが思ったより柔らかくコスンと切れた。だから柔らかいものだと思っていたのだが、蒸かしているとき、たまに竹串を入れるが硬い。蒸かし時間的にはスーと入るはずなのだが。
 それでいつもよりも時間を掛けて蒸かした。流石に湯もなくなるので、適当なところでもう一度竹串を刺すと、今度は貫通した。
 食べると、ポテポテのサツマイモ。特上だ。ただ蒸し時間が長くかかるのが難だが。
 さて、サツマイモを食べたぞ。さあ、変化、異変。と、それを待つ番。
 しかしそれから一週間ほど経つが、異変は起こらない。以前は二日以内に変わったことが日常で起こった。長くて一週間以内。それを過ぎたのだから、今回はなかったのだろう。
 だが、よく考えると、サツマイモを食べると異変が起こるのは、起こるであろうと思っていないとき。ただ単にサツマイモを食べたときだ。
 今回は異変が起こるかもしれないと思いながら食べた。ここが違う。
 ということはサツマイモでの異変を避けるためには、食べる前に異変が起こるぞと思いながら食べれば異変は起こらないことになる。
 しかし、サツマイモの難は、それで避けれても、異変の原因になるのはサツマイモだけとは限らない。
 
   了
 
posted by 川崎ゆきお at 10:22| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする