2018年11月22日

3814話 透視術


 今回の妖怪談はちょっと本物と遭遇したようなので、危険な話となる。
 妖怪博士は透視術、千里眼という非常に良い視力の少女の調査を頼まれた。少女は普通の家の子供で、親がそのことに気付いた。まだ見せていないものが見えたりする。たとえばプレゼントの箱。まだ中身を知らないのに、当ててみせた。まあ、それは絞り込めば分かるかもしれない。おそらく親が子供が喜びそうなものや、子供が欲しがっているものを知っていたため、範囲が狭い。
 しかし母親が家の何処かに仕舞い込んだ場所が分からなくなる。それを少女が言い当てた。それは隠していた財布だ。当然中身はそのまま。
 そういうことが重なるので、気味悪くなると同時に、これは誰にもできない特技を娘が持っているのではないかと多少は期待もした。しかし、その真実は分からない。そこで近所の有名な大学に通う女学生に心理学の教授を紹介してもらった。研究材料として、悪くはないと思ったのだが、専門外ということで断られたが、その方面は、この人だろうということで、そのこの人が調査に来た。それが妖怪博士。
 妖怪博士はトランプではなく、子供向けのいろはかるたを使い、透視の実験をした。まずは、ここからだろう。
 少女はトランプは持っているが、かるたは持っていない。慣れていないもので当てさす方がよかれと思ったのだろう。
 透視のいろははいろはかるたから、ということもある。ただの語呂だ。
 妖怪博士はかるたの絵が書いてある札だけを並べ、その中から少女に一枚選ばせた。それを妖怪博士が受け取る。少女は選んだだけで、絵は分からない。
「当ててごらんなさい」
「はい、先生」
「どんな絵ですかな」
「坂が見えます」
 少女は坂道を上る子供の絵を見事に当てた。坂道坂道辛いなー。さで始まる言葉だ。
 これは手強いと妖怪博士は喜んだ。妖怪博士はタネは仕掛けられるが、少女にはそれができない。
 次ぎに妖怪博士は財布を取り出し、いくら入っているかと聞いた。
 少女は二千三百二十一円と答えた。
 妖怪博士は少し恥ずかしかった。万札がない。
 しかし小銭までは覚えていない。二千円ほどはあると思っていた程度。
 これは来ていると、妖怪博士は本腰を入れた。
「物理的に、そのものが透けて見えるのですかな」
「さあ」
「じゃ、どうしてそれを言い当てられたのです」
「何となく」
 この場合、レントゲンのように透視するタイプと、誰かに教えてもらうタイプがある。大学の心理学者が嫌ったのは、このタイプではないかと見たのだろう。つまり守護霊とか背後霊とか、先祖とか、そういったものが見に行き、少女に教える。これは霊は透明人間のようなものだとすれば、勝手に覗けるが、財布の場合、開けないと中は見えないだろう。当然財布が動いた様子は全くない。
 次は実験者の心を読み読心術タイプがある。実験者が心に浮かべたものを読み取る。かるたの場合は妖怪博士は絵を確認したが、財布の場合は二千円台だろうという程度で、小銭までは心に浮かんでいない。
「もう一度聞きますが、どうして当てられたのですかな」
「何となく」
 妖怪博士は呪文が書かれた御札を封筒の中に入れ、中に何が書いてあるかを当てさせた。
「ごにょごにょ」
 少女は読めないようだが、妖怪博士もこの呪文は読めない。だから当たっている。
 そうなると、本物の千里眼ということになるが、そこまで目は良くないだろう。視力にも限度というのものがある。
 だから、誰かから教えてもらっているのだ。
「心とか頭とかに浮かぶのですかな」
「うん、何となく」
 これはイメージ化以前だろう。感じというやつだ。だから霊感と呼んでいる。
「困りましたなあ」
 つまり、こういう子は世に出してはまずいのだ。そこのところを両親に説明しないといけない。今はその力があっても一時的なことだろう。来年はそんな力など抜けているかもしれない。だから公表すべきではない。
 霊能力少女よりも両親の扱いの方が怖かったりする。
「どうでした、先生」
「サトリですなあ」
「悟り」
「はい、妖怪です」
「え」
「少女に取り憑いているようです。そのサトリは読心術や千里眼が得意で、嬢ちゃんの力ではなく、そのサトリの力なのです」
「どうすればよろしいのでしょうか」
「お子様のことなので、私がどうこう申すわけにはいきませんが、この能力を活かすか、普通の嬢ちゃんに戻すか、決めて頂けませんかな」
「でも誰にもない力なのでしょ」
「ですから、それは妖怪サトリの力でして、こいつは妖怪です。もし公表し、いろいろな場に連れ出されたとき、サトリはそういうのを嫌いますからね。抜けるでしょう。すると、読心術も千里眼も消えます。とたんにインチキだったことになり、嬢ちゃんは一生の傷を負います」
「私も気味悪いし、やりにくいと思っています」
「嬢ちゃんが悪いのではなく、サトリが悪いのです」
「分かりました。その妖怪を祓って頂けますか」
「何とかやってみましょう」
 サトリ祓いの呪文も儀式もない。そんなもの最初から存在しない。
 そのため、妖怪博士は少女に特殊な力のカラクリをコンコンと言い聞かせた。これが呪文のようなもの。
 そして下手な絵だがサトリのグロテスクな姿を書いて見せた。こんなものと縁を切るには、相手にしないこと。それでサトリは面白くないので、抜けると教えた。
 要するに自分で抜けということ、自分で追い払えということだ。
 その後、少女は、もう千里眼ができなくなったのだが、妖怪博士の説教が効いたのか、そういう時期だったのかは分からない。
 世の中には、こういう本物がいる。サトリなどではなく、その少女にその力があるのだ。しかし、それは誰も幸せにはしてくれない。
 ある日、娘がもう完全に治ったので、お礼がしたいと、少女を囲んでの食事会に誘われた。
 妖怪博士が一番気にしていた礼金がまだなのだ。
 当然、そのとき、しっかりと礼金の封筒を受け取った。
 横に座っていた少女が妖怪博士の耳元で「三万円」と小声で囁いた。
 
   了

posted by 川崎ゆきお at 12:24| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする