2018年12月28日

3850話 大きな妖怪面


 久しぶりに妖怪博士のところに妖怪の依頼が来た。妖怪博士がイベントで妖怪の扮装で何かをする話ではない。
 すこし辺鄙な場所だが交通の便は意外といい。山襞の中にある村だが、距離は遠くてももっと近くでも凄く時間のかかる場所がある。それに比べての話だが、これなら日帰りでも行けそうだと思い、引き受けた。
 当然妖怪の調査研究。依頼は村の青年団のようなものだが、いずれももう年寄り。後に続く若者がいないので、そうなった。
 往復の交通費と調査費、一泊するなら宿泊できるらしい。
 便がよくなったのは近くに高速道路ができているため、山の中を走っている。幸い小さなインターから村までが近い。インター前に村から出迎えの車が来ており、それに乗れば、さっと着いた。山は深いが、高速道路はもっと深いところを貫いている。
 妖怪とはお面のことで、バケモノ面。それが蔵から出てきたので、これは何かということになった。
 村には古くから伝わる祭りがあるが、こんなかぶり物はしない。
 面は紙粘土で固めたもので、絵の具で分厚く塗られているが、既にくすみ、彩度が落ちているものの結構派手。
「これは何でしょう」
「村興しで使われるのですかな」
「いえ、村とは関係ありません。それに観光客も来ないでしょ」
「誰もご存じないのですかな」
「はい、この面を年寄り達に見せましたが、初めて見るとか」
 面はかなり大きく、被ることができるが、もの凄い大顔で大頭。これを被れば遠くからでもよく見えるだろう。歌右衛門や千恵蔵のように顔が大きい。歌舞伎役者なら、大きい方が見やすいが、その面、それよりも遙かに大きい。しかも何の面なのか、キャラが分からない。神仏ではなさそうで、怖い顔や薄気味悪いのやらが数枚ある。
「何処の蔵から出たのですかな。その家の人なら知っておられるでしょ」
「分かりません」
「その家の人と合わせていただけますかな」
「ボケています」
「あ、そう」
「妖怪の面だと思いまして、お呼びしました」
「じゃ、妖怪の面でしょ」
「ですから、どういう使われ方をしたのかを調べて欲しいのです。またこのタイプにありがちな系譜のようなものから推測してもらえませんか」
「系譜?」
「はい、こういう面の用途で似たものがあると思いまして。当然どういった妖怪なのかも」
「この顔、ちょっと分かりませんなあ」
「これを被り、妖怪に扮していたのじゃありません?」
「しかしねえ、面だけじゃないでしょ。これに合った衣装とかが必要なはず」
「草とかを身体に付けたんじゃないでしょうか」
「南方系ですなあ、それじゃ」
「じゃ、そこから伝わったもの」
「それなら妖怪ではなく、神様ですよ。ただ、神が妖怪なのか、妖怪が神なのかは興味深い話ですが、これだけでは何とも言えませんなあ」
「これは山の神ではないでしょうか」
「あ、そう」
「または魔除けでは」
 妖怪博士は単純なことに気付いた。誰でも気付きそうなものだが、被る面だが、目が開いていない。だから被ると目が見えなくなる。しかし、そういう面は存在する。誰かが手を貸せばいい。目玉の覗き穴を付けないのは形相が変わるため。
 そしてこの面、被るための紐は切れているが、かなりしっかりした通し穴がある。また高さは顔を超え頭の頂上を回り込んでいる。被るとスポリと入るだろう。真後ろは開いているが。
 つまりフルフェイスのヘルメットのようなもの。
「小学校はありますかな」
「廃校になりました。今は運動場しか残っていません」
「学芸会とか運動会で使ったのじゃろう」
「それなら年寄り達が覚えているはずです」
「明治あたりじゃ無理でしょ」
 年寄りといっても最長老は大正生まれらしい。
「そこまで考えませんでした」
「こういう顔をした妖怪がいたわけじゃない。お化けの面なら妖怪にも見えますがな。この世にはないような顔。それだけでしょう」
「村には天狗の伝説が残っています」
「よくある伝説じゃな」
「何とか、これ、妖怪になりませんか」
「面だけではのう」
「これで祭りをやりたいのですよ」
「村興しはなさらないのでしょ」
「しませんが、青年団の行事にしたいので博士のお墨付きが欲しいのです」
 青年団といっても既に初老だ。
「要するに、これで遊びたいと」
「はい」
「しかし、面だけではのう、これにまつわる話がないと」
「それで博士をお呼びしたのですよ。いろいろと作っておられると聞きました。一作お願いしてよろしいでしょうか」
「最初から、そういうことだったのですか」
「おそれいります」
「しかし、この面は本物じゃな」
「はい、これは間違いなく蔵から出てきました」
「持ち主から聞けばすぐに分かること」
「だから、ボケていて、無理です」
「分かりました。何とかしましょう」
「ありがとございます。これで隣村のイベントに勝てます」
 妖怪博士は、こういったご当地妖怪談をいくつか創作しているようだ。
 ここからは妖怪博士の想像だが、運動会でのかぶり物競争に使われたのではないかと思える。それと鬼さん鬼さんごっこ。被ると目が見えなくなるので、この面は目隠しの役目。
 運動会で競争したのではないか。だからこの面、得体が知れず、原形が分からないのは、当時の尋常小学校の子供が作ったため。
 それが面の正体だとすれば、神秘性がなくなる。晴れ舞台の運動会で健康的な話になる。
 妖怪博士は青年団の話を参考に南方系の神かオバケか分からないカオスな妖怪とし、長い草を全身に括り付け、森の精としての伝説をでっち上げた。
 妖怪博士は一泊することになり、真夜中に書いているとき、部屋の隅の暗がりに、顔が浮かんだような気がした。あの面ではないかとドキッとしたが、妖怪博士はそういうものは本来見えない体質なので、明るいものを見たあと、薄暗いところを見たので、光が目に残ったのだろう。
 
   了

  
posted by 川崎ゆきお at 12:02| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする