2019年02月03日

3887話 古の悪霊


 妖怪博士は「古(いにしえ)の悪霊」という言葉が気に入り、それが何を指すのかを調べていた。いつものように調べる前に字面から入る。古い時代、これはかなり古いかもしれない。いにしえという言葉が古いためだ。そして悪霊。これは二つに分かれる。「悪」と「霊」。悪はいる。いるだろう。霊。これはいるかいないのかは分からない。しかし、霊の中にも普通の霊と、悪い霊がいるのだろう。良い霊というのは、あまり例がない。よいものが霊になって彷徨わないだろう。だから善霊には前例がない。当然善霊という言葉はない。全霊はあるが、これは全身全霊で取り組みますというときに使う。身も心もということだろう。すると、このときの霊は幽霊の霊ではない。精神力のようなもの。ただ、それを差しているのか、魂を指しているのかは曖昧。霊はフワッとしていそうだが、魂は固そうだ。まあ、弱い魂では、魂らしくない。魂は強いイメージがある。
 さて、本題の古の悪霊。これを「いにしえの悪霊」ではなく「こ(古)の悪霊」とした方が、凄みが増すかもしれない。
 妖怪博士はそれらを文字で読んだだけで、その言葉を声として聞いたことがない。話し言葉の世界ではなく、書き言葉の世界。文字の世界。だから「いにしえ」と読まないで「こ」と読むことがある。どちらが正しいかではなく、響きの問題。これだけで指しているものが違ってきたりする。範囲とか古さとか、生き物なのか物なのかも。
 古の悪霊、それは遠い。古いから遠い。遠い時代からいた悪霊。しかし、悪霊のイメージは洋風。悪魔と親戚のような感じ。本邦には悪魔はいない。いるとすれば悪い心だろうか。これは心が凝固した魂経由で、悪心が悪い魂という鬼のような意味となり、魂を霊と同類とみて、悪霊。これが古い時代ではもののけ、妖怪だった。やはり人の心と絡んでおり、神仏ではなく、人が悪霊となり、祟る。
 妖怪が量産された江戸時代。これは遊びだ。冗談であり、洒落であり、川柳のようなもの。
 古の悪霊。これは人の怨念、死霊の祟りのようなものがメインだと思うが、その中に、精霊的な悪霊、即ち妖怪がいたはず。これは人ではない。
 だが人の中に獣を見出した可能性もある。獣の中に人を見出した場合、これは悪いものではない。獣の中に獣を見出すのは普通だ。見たままだろう。
 古の妖怪。それは精霊や妖精だっのかもしれない。人ではなく自然界の脅威のような。畏怖すべきもの。そしてその中で人に影響を与えるタイプを妖怪とした。ほとんどの妖精や精霊は人とは関わらない。そこはかとなく、何かがいるように感じる程度。それは聖なるもの、大自然に近いだろう。
 要するに目立つのは本筋から離れたタイプ。精霊の中にも変わった奴がいたのだろう。はみ出すタイプ。これが人と接触した。結界の外へ出た。
 古の悪霊。それは時代的にも遠くて掴みにくい。もの凄く深い階層で眠っていそうな悪そうな奴だ。
 妖怪博士は、そういうタイプの古い妖怪と対決することを夢見ているが、夢の中でしかお目にかかれないかもしれない。太古の記憶が夢で現れないとも限らないので、博士は睡眠時間を長く取っている。
 
   了
 


posted by 川崎ゆきお at 12:45| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする