2019年02月04日

3888話 冠雪


 寒さはさほどない朝だが、外に出てみると遠くの山が白っぽい。冠雪だ。雪化粧。これは浅い雪。吉田が住む地方は雪が少ない。真冬、たまに降る程度。しかし積もるのは希。だが山は雨ではなく雪になるのだろう。千メートルはないが、それでも温度差が地上とはかなり違うはず。
 山上にスキー場がある。麓ではなく、山の頂上付近。そこまで高度がないと、雪は積もらないのだが、そのスキー場、雪が積もらなくてもいい。人工雪のためだ。
 吉田は冠雪を見ながら、山の相も見た。山にも人相のような山相がある。季節により、気候により山の相が変わる。昔の農家なら、残雪の偶然の形から、何かに見えたりする。それで春の気候とかが分かったりする。つまり田植えの時期を早めるとか、遅らせるとか。ただ低い山だと樹木に覆われているので、読みにくい。
 吉田はそれに関係しないので、そこではなく、行ったことのある場所を見ている。遠くから見ると書き割りの山のように平坦だが、実際は複数の山塊が連なったり、重なったりしている。だから複数の山からなる山地。山腹に峠があったり、当然独立した山なので、登っても降り道が他になければ、行き止まりと同じ。
 山塊越えの有料道路があることを思いだした。山地の峰峰をすり抜け、ときには強引に登り、やがて麓の村へと出る。山地の裏側へ出る道路だが昔はなかった。山越えの道は残っているが、ハイキング道。魚屋道と名がある。山の表側は海は近い。漁村が近い。そこから山向こうの村まで魚を運んだのだろう。京都には日本海と繋がっている鯖街道がある。それに比べると僅かな距離だが、勾配がきつい。
 吉田はその魚屋道を歩いたことがある。それは麓からは見えないが。
 さて、その強引に山越えをする有料道路だが、インターチェンジが見える。山頂へ向かう一般道路と交差するところ。そこに建物があり、それが見えている。これは雪が積もっているときだけ、よく見える。
 夜になると、有料道路を走る車のヘッドライトがかすかに動いているのが見えるが、ピカッピカッと光っている程度。
 この有料道路、結構高いところを走っているのだが、通ったのはいつの頃だったのかと、思い出そうとした。
 表側の町からバスが出ており、温泉街まで行ける。それに乗ったときだろうか。
 ここ数十年、その山地には踏み入っていない。用事で山頂まで行ったことはあるが、ケーブルを乗り継いだり、あとは車だ。山登りとして歩いた記憶がない。
 子供の頃から見ている山。しかし、ほとんどの場所は踏破した。だからそこがどうなっているのかはもう知っている。山などそう変化はないだろう。建物が増えているかもしれないが、麓付近だけ。中腹から山頂にかけては何十年も前のままのはず。
 謎だった場所が、謎でなくなっている。だから冒険心が起こらないのだろう。
 
   了


posted by 川崎ゆきお at 11:39| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする