2019年02月13日

3897話 乳臭い


 内臓の調子は舌先で出ると言われている。他にも色々と出所はあるのだが、舌先の場合、わざわざ試す必要はなく、食べたり飲んだときに分かる。その中でもコーヒーのようなものは、分かりやすい。お茶でもいい。ただし、いつも一定した味と香りであることが大事。そうでないとそのものの様子で違ってしまう。
 岸和田はそれで朝の喫茶店でそれが分かるようになった。毎朝トーストと卵の付いたモーニングセットとホットコーヒーを飲む。これはアイスでは駄目。それは舌や唇と熱さの関係が分かりにくいため。
 トーストをかじるとき、口の荒れが分かる。口内の問題もあるが、体調の問題が多い。口が荒れるというのは口そのものだけが原因ではないだろう。調子が良いときの岸和田は囓るとき、違和感を感じない。これも喫茶店で焼いたものなので、毎朝違うかもしれないので、当てにはならない。同じ種類のパンでも古いか新しいかだけでも変わるので。
 そしてゆで卵。これは爪に来る。爪先は結構敏感なセンサー。皮を剥くとき、尖った箇所ができ、そこに当たると痛かったりする。また親指で皮を滑らせるように剥がすときも、親指の腹の感覚が毎回違う。当然体調が悪いときは痛い。指の腹はもの凄く敏感だ。
 これも卵の質にもよる。また茹で方にもよる。強情なほど固い皮や、つるんと剥けないほど薄皮でくっついているものとか。そして水分も影響しているのだろう。これは作り方にもよる。だからトーストもゆで卵も個体が原因の場合があるので、全て体調と関係づけるのは危険だが、トーストを囓るとき、妙にカサカサとかパサパサとかしているというのは分かる。個体差を越えるほどのカサカサ加減の場合。
 そして、一番分かりやすいはずの水だが、これは味も何もないので、逆に分かりにくい。
 本命はホットコーヒー。これも同じ時間帯に行くとほぼ同じ時間に入れたものが出る。だから安定している。これにも個体差はあるのだが、もっと飲みたいと思うときと、残すときがある。ここで分かる。
 そして香りだ。これがコーヒーの豆臭い香りが来ると、結構いい。コーヒーが良いのではなく、体調がいい。
 岸和田はその日は、今まで経験しなかったコーヒーの味を体験した。これはミルクの匂いというより乳の匂い、要するに乳臭さを感じた。コーヒーそのものではなく、そこに入れるフレッシュから来ているのだろう。それがコーヒーと砂糖が混ざった状態で出た。今まで、そんな乳臭い感じはなかった。非常にマイルドなのだ。
 これは店がフレッシュを変えてきたのかもしれない。砂糖を変えただけで、コーヒーの味は変わる。そのフレッシュは小さなカップに入ったもので、いつも見ているタイプ。だからフレッシュを変えてきたのではない。砂糖もバー状の袋に入っているタイプで、これもいつもと同じ。
 では、この乳臭さは何だろう。近いものとしては不二家のミルキーがある。
 これは体調の変化で、今まで閉ざされていた味覚の一つが出たのか、それとも単に個体の問題で、変化したのは個体で、体調ではないのかもしれないが、コーヒーを飲んで、滑らかな乳の味と香りがした。ためにし、もう一口飲むと、やはり同じ。しかし、コーヒーカップから飲み終える頃には、それはもう消えていた。
 先日まで風邪気味だったので、コーヒーも美味しくなかったが、今朝は治っていたので、何かが刷新され、味覚が通ったのかもしれない。しかも新しいタイプの感覚も。
 それら全てが錯覚だった場合も、そのとき受けた感覚は、結構印象に残る。これはあのとき食べたきつねうどんが美味しかったとか、タコ焼きが美味しかったとか。そしてそれを越えるものが今もないとかを一生言い続けるだろう。
 だから、岸和田が今日感じたコーヒーの味を越えるものは今後ないかもしれない。何らかの偶然が重なって発生した味や香りだとすれば、再現させにくい。
 岸和田は少しだけ、何らかの奇跡のようなものを味わった気持ちになる。あまり役に立たない奇跡だが。
 
   了



posted by 川崎ゆきお at 11:26| 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする